新装版 おろしや国酔夢譚 (文春文庫)
新装版 おろしや国酔夢譚 (文春文庫) / 感想・レビュー
Kajitt22
18世紀、難破しロシア極東のアムチトカ島に漂着した、大黒屋光太夫と16人の船乗りの壮大な物語。前半は見知らぬ氷雪の土地での極寒との戦い、中盤多くのロシア人に助けられながらイルツーツクを経てペテルブルグへの大陸横断。そして荘厳な王宮での当時の女帝エカテリーナ二世との謁見の見事な描写。終盤、やっと帰国なった鎖国日本とロシアとの落差。13人を亡くし、生き残って再度日本の土を踏んだ光太夫と磯吉にとってはまさに酔夢譚であった。
2023/09/27
aika
日本史の教科書では数行しか記述のない、江戸時代の漂流民・大黒屋光太夫と船員たち一人一人の真実が、大家の精緻で骨太な筆致により刻まれていて、小説の真の底力を感じ入りました。常に冷静で、異国で生き延びる為に率先してロシア語や先住民の言葉を覚え、仲間たちを率い続けた光太夫その人に魅了されます。途中で命を落とす者、覚悟を決めてロシアで生きる者、そして帰国する者。人智を超えた運命の交錯の果てに、一日千秋の思いで日本にたどり着いた光太夫たちが感じた、故国に受け入れらなかったという孤独と懊悩の深淵さが胸をつまらせます。
2020/12/20
kawa
江戸時代(1782年)、伊勢の大黒屋光太夫ら17人の船乗りたち、苦難のアリューシャン列島とロシアへの漂流記。結局10年後、日本へ帰還できたのは2人のみ。光太夫のリーダーシップとロシア語をものにする等の前向き精神が読みどころ。彼の姿勢が、キーマンとなるラスクマンとの交情や、奇跡的なエカチェリーナ2世との謁見の原動力となった。帰国後、不自由な人生を送ったと描く本編。しかし、蘭学の発展に貢献したという記録もあるよう。吉村昭氏の「大黒屋光太夫」を読まねば。この漂流から59年後、ジョン万次郎が漂流・渡米している。
2022/04/28
James Hayashi
第1回日本文学大賞受賞69年。伊勢の漁民であるが、この世に残したものは彼らが思う以上に貴重なものかもしれない。日本以上にロシアの日本研究に貢献したのでなかろうか?すでに18世紀初頭から交流のない日本の漂流民を手厚くもてなし日本語を学び出したロシア。大黒屋光太夫は1世代後であるが日本へ戻る事ができ、記録もしっかりある。極寒の地で命を終えるもの、日本への帰国を諦めるもの。漂流で助かりながら、広大なロシアの大地は想像以上の障害であった事であろう。
2019/08/24
メタボン
☆☆☆★ ロシアに漂流してからの過酷な日々、相次ぐ仲間達の死を超えて、日本に帰った二人だが、いかに鎖国していたとはいえ、連れない仕打ちとも言える日本の対応に、幻滅させられた。果たして日本に帰ったことが幸福だったのか、と考えさせられた。
2022/10/31
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