ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯 (文春文庫 キ 16-1)
ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯 (文春文庫 キ 16-1) / 感想・レビュー
へくとぱすかる
スズメが好きだ。読メに記録したスズメの本が、何の作為もなく3冊目だから、心底好きなのだろう。世界大戦のさなか、巣から落ちた1羽のひなを、ひとり暮らしのピアニストが生き返らせたところから話は始まる。小説と思っていたが実話であり、立派な生態記録でもある。なんと老衰死までの12年、スズメは戦中戦後を生きのびて、芸や歌まで身につける。何よりスズメに励まされたのは著者のキップス夫人ではなかっただろうか。生涯の克明な記録は、最後にやはり泣かせる。
2015/11/21
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
第二次世界対戦中のロンドン。まだ目も開かない生まれたばかりの雀の雛。それを拾い育てた著者とクラレンスと名付けられた雀との12年の記録。雀は飼うことはできても人には慣れないと聞いていた。だがどうだろう、著者の弾くピアノに合わせて歌ったり、子供達を楽しませる為に芸をする雀。時には描写が擬人的すぎるのではとも思えたが、本当に著者にとっても可愛い、かけがえのない子供のような存在であったのだろう。翻訳も野鳥の好きな梨木さんというのも良し。★★★★
2017/04/13
sin
彼の幼い頃への回想や、戦時中の活躍には、作者の想いが強すぎて、たどたどしい賛辞に終始するように感じられたが、その晩年を見守る姿には目頭が潤んで仕方がない。十二年と七週と四日という歳月は自然のスズメに於いては意想外の寿命であろうが自分たち人間にとってとても短い生にすぎない。だがしかし生きるということに果たして長い短いが当てはまるのだろうか?人間はもっとこの生き物たちのようにその生の一瞬一瞬を懸命にそしてただ生きる必要があるのではないだろうか?
2017/01/10
(C17H26O4)
この文庫の装幀だけで愛しい。紙質や色合いや装画からスズメの僅かな重さ、けれど命の確かな温かさが伝わってくるよう。小さないきものをそっと手で包むようにページをめくった。原題は"Sold for a Farthing" 訳者あとがきから意味を知る。「とるにたりないちっぽけなものにも神の御意志は働いている」というような意味らしい。一人と一羽の、まさにそうとしか思えない奇跡のような出会いと数々の驚くべき出来事に、貴さと尊さを感じた。キップス夫人と心通じ合わせるクラレンスの歌とさえずりが聞こえてくるようだった。
2019/12/03
ぶち
第二次世界大戦時のイギリスで、著者のキップス夫人は傷ついたスズメの雛を看病し、以来12年もの間一緒に暮らしたスズメの様子をつぶさに記録した貴重な本です。記録にふさわしい淡々とした文章ですが、キップス夫人の愛情がひしひと伝わってきます。これには、梨木香歩さんの翻訳も大きく寄与していると思います。サブタイトルに"人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯"とあります。まさに、スズメと人間という種を超えてお互いを尊重し合った姿には誇り高い気概を感じます。表紙の酒井駒子さんのイラストも素晴らしいです。
2020/01/21
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