沈黙のひと (文春文庫 こ 29-8)
沈黙のひと (文春文庫 こ 29-8) / 感想・レビュー
しいたけ
解説に「父恋いの文学」とある。あとがきには、小説に出てくる父「三國泰造」作の短歌が全て小池真理子の父小池清泰が詠んだものであると書かれている。そして最後の一文「本書は亡き父に捧げる」。小池氏をある文学賞のパーティーでお見かけしたことがある。明るく柔らかな黄色いオーラを纏った方で、華があった。女が纏う華とは、父親が淑女に対するが如く降りそそいだ愛によるものだと私は思う。幼き日母と自分を捨てた父が、患い今死出の旅に出る。痩せた手の甲、汚れる口のまわり、病室の微かな便の臭い。それでも父が恋しい。私も父が恋しい。
2017/09/26
ふじさん
両親の離婚で関わりの少なかった父親が難病を患って死んだ。遺品として持ち帰ったワープロには、口を聞くことも出来なくなっていた父親の思いが綴られていた。後妻家族との確執、衿子への溢れんばかりの想い、そして秘められた恋等。生前に知ることのなかった父親の人生を振り返ることで、自分の生き方や自分の母親への想いを振り返ることになる。父恋いの文学の色濃い作品。父親が残したワープロの文章や友人に出した手紙が、父親の人生観や人間性が巧みに表現されていて心に染みた。小池真理子の新境地を感じさせる作品、魂を揺すぶられる傑作。
2021/12/10
アッシュ姉
「本書は亡き父に捧げる」とあり、胸に迫る父と娘の物語でした。私自身も父とは離れて暮らしている期間の方が長く、大人になってから急速に距離が縮みました。愚痴や悪口などは一切言わず、面白い話ばかり聞かせてくれる楽しい人でした。映画や本が好きで、お互いに面白かった作品について話したり、よく食べよく飲み明るく大好きな人でした。五年前にまだ若く元気に仕事もしていたなかで急死した父を思い出し、はらはらと涙が止まらず、泣けて泣けて仕方がありませんでした。父を偲びながら読書をする大切な時間をくださった小池さんに感謝します。
2016/04/28
あきら
母親がパーキンソン病なので、重なる部分が結構あり、読むのが本当に辛かった。 こんな気持ちになった小説は初めてでした。こころが揺さぶられます。
2022/04/30
佐島楓
理解しようと思いかけ、指を伸ばした矢先、病に倒れる主人公の父親。老いるということ、病むということ、それでも人を恋うるということ。たいていの方が人生の終わりを自分で決められない。小池さんのファンの方以外にも、ぜひ広く読まれてほしい作品。いつかは誰もが老い、倒れるのだから。
2015/06/28
感想・レビューをもっと見る