望郷 (文春文庫 み 44-2)
望郷 (文春文庫 み 44-2) / 感想・レビュー
さてさて
〈みかんの花〉を含め六つの短編から構成されたこの作品。白綱島を舞台にちょっとミステリーな物語がそれぞれ展開します。いずれも過去と現在の二つの時に光を当て、その対比、その繋がりが巧みに描かれていきます。舞台となる白綱島の風景がそれぞれの章で少しづつ丁寧に描かれていることもあって、読み終わる頃にはこの島の過去と現在の情景がそれぞれが浮かび上がってきました。人の心の闇を描きつつ、それでいてみんなどこか前向きな姿勢が共通したさわやかなミステリー、こんな湊さんもいいなあ!そんな印象も持った読み応えのある作品でした。
2021/03/12
yoshida
「Nのために」があまり合わず敬遠していた湊かなえさん。良い作品に逢えた。白綱島を舞台として起こる様々な人間模様。家族内の妬みや葛藤、散りばめられた伏線。そのラストの回収に背筋が震える。米澤穂信さんの「満願」にも似た味わい。特に「みかんの花」、「海の星」、「夢の国」が好み。淡々と語られる過去や想いに、急な突風のように顕になる隠された真実。他者の想いは言葉にしないと分からないし、言葉にすることに失敗することもある。だからこそ、その行動の真意に驚愕する。程度の差はあれど、我々の日常にも潜む物語。満足の読書時間。
2018/02/18
三代目 びあだいまおう
著者を育んだ故郷、因島(作中は白綱島)を舞台にした短編集。孤立した島が本土と橋で結ばれた。島を思い、本土への憧れを胸に秘め、成長する各話の主人公。繋がってる訳ではないがたった50頁程度の短編に其々の故郷への思いが紡がれる。ジャンルはミステリーのようだが謎が前面に出てこない。各話最後に予測不能なミステリーエッセンスが顔を出す!なるほど巧緻。思うに各話、全てを描き切っていない。余韻の行方を読み手に委ねるかのように放り出す。この心地よさ。『私にとって大切な作品です』著者が問う、故郷に思いを馳せた我が血潮‼️🙇
2020/03/27
エドワード
二度と帰るものか、と思うほど、懐かしいのが故郷だ。穏やかな海の風景が美しい瀬戸内海の白綱島。娯楽は少なく、狭い世間が息苦しい。過疎化が進み、本土の市に吸収合併される白綱島市。島から出ていき東京で作家になった姉が市の閉幕式に現れた。妹の思いは…。封建的な祖母に抑圧された少女時代に夢にまで見た東京のテーマパークを訪れた女性。都会と地方の落差に翻弄される人々、平成日本の各地で見られる愛憎劇が集約されている。一方、いじめは都会も地方も全く変わらない。都会で登校拒否になった少女の心が島で癒されることを切に願う。
2016/02/18
bunmei
湊作品にしたら珍しい、最後はホロリとさせる人情ドラマ短編集。しかしそこは湊作品。ホロリとさせるまでには、感情を逆なでるような伏線が、散りばめられています。過疎化が進み、人々が島を離れ、市として閉幕を迎えることとなった白綱島。その島から飛び出した人、残った人、戻った人が、島での様々な思い出や出来事を振り替える中で「されど故郷」と、島への思いとしがらみに縛られながらも、様々な人間ドラマが展開していきます。ミステリー要素を含みながらも、各々が抱える島でのトラウマと向き合う中で、新たな一歩を踏み出す物語です。
2018/12/17
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