ソナチネ (文春文庫 こ 29-9)
ソナチネ (文春文庫 こ 29-9) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
7つの短篇を収録。それは小池真理子の小説に限ったことではないのだが、すぐれた短篇小説は、わずか数十ページで人の半生を鮮やかに語る。特にそう思ったのは「木陰の家」と「終の伴侶」を読んだ後だった。私は、自分とは全く違う人生を追体験して生きたのだ。一方、表題作の「ソナチネ」は、官能小説である。描かれた行為としては、こっそりと太ももを撫でるというだけのものなのに、深くまで浸透する官能性を有している。また、「千年萬年」と「美代や」は性が併せ持たざるを得ない「業」の哀しみを淡々とした筆致で描き出す。
2019/06/13
takaichiro
恋愛短編小説のレジェンド、小池さんの7短編集。作品は、恋愛、時に官能をフロントラインとして陰に死を纏う。人間が織りなす人生模様。怖さ、美しさ、やり場のない嫉妬や時の流れに薄らぐ衝動を編み込みながら、生を彩る日常を起伏のない自然体で描く。欲しいものが全て手に入るわけではない。それどころか奪われることも多い日常。それも全て味わい尽くすことが人生だと静かにつぶく作品たち。今回はトップバッターの「鍵」が良かった。不倫や死を語りながら、運命を大きく変える人との出会いに彩りある鮮やかな光をあてる。小池さんの真骨頂。
2019/07/15
アッシュ姉
熟練の域に達した小池真理子さんによる大人向けの短編集。じっとりと絡みつくような円熟した味わい。特に印象的だったのは、孫がいる主婦がマッサージに目覚める「千年萬年」、すべてを知った息子の心中やいかに「美代や」。抑えきれない欲望、抗うことのできない本能、消えることのない嫉妬の炎。普段は理性で抑えていても、ふとしたはずみで燃え上がる。誰もがそうだとは思わないが、女はいくつになっても女であることに怖くなった。
2018/01/19
Shoji
人生のたそがれ時を迎えようとしている男と女の恋物語集。色恋沙汰が決して綺麗ごとだけではないことを知っている、まさに酸いも甘いも一通り経験した男と女の物語。しかも、この本に書かれているのは婚姻関係外の恋物語だ。普段の生活や外見はもちろん仮面である。そんな小池真理子さんの書く、若くはない男と女の機微、もちろん大好きだ。
2017/02/25
アン
個展会場で見つめ合う夫と女性を目撃してしまった妻、別荘のパーティーで偶然出会ったばかりの男女の密会の約束…。刹那的に宿る欲望を軸に、大人の心の揺れを綴った恋愛短篇集。どの作品も老いや死の影があり、日常に紛れ込んだ妖しい感情が余韻を残します。迷った先にあるのはオアシスなのでしょうか…。魅惑的な装丁と千早茜さんの解説も印象的です。
2019/03/18
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