その犬の歩むところ (文春文庫 テ 12-5)
その犬の歩むところ (文春文庫 テ 12-5) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
"Giv"に導かれてたどるアメリカン・ロードノヴェル。物語の主人公は確かに犬の"Giv"である。そうに違いはないのだが、むしろここで語られるのはアメリカの姿である。それも多分に「負」の様相を帯びたアメリカだ。9・11、ハリケーン・カトリーナの惨劇、そしてイラク帰還兵の虚無と苦悩(後段ではヴェトナム帰還兵も)。作中で語られる「これがアメリカであるはずがない」—これこそが、この小説の隠された主題に他ならない。体制としてのアメリカ—その一方でハートウオーミングな個としてのアメリカを"Giv"が浮かび上がらせる。
2017/12/23
遥かなる想い
2018年このミス海外第8位。 その犬ギヴの旅を通して、アメリカに生きる 名もなき善良な人々を描く。 イラクで カトリーナで 心を病んだ人々が ギヴを通して 復活していこうとする様は 読んでいて 清々しい。一風変わった物語だが、 慈愛に満ちた気持ちの良い展開本だった。
2018/01/08
ケイ
犬とは、強く賢く逞しく、常に人に寄り添い、愛する人のためには自らの危険を省みずに行動するもの達。彼らの犠牲的精神や英雄的行為がいつも報われるとは限らず、裏切られたり、痛め付けられもする。無意味に命を奪われることすらある。彼らのその姿は、国のために戦ったのに見捨てられた兵士たちになぞらえることはできまいか。突然のテロに失われる命にも。自然災害に立ち向かいながら命を落とす者達にも。そんな人達とこの犬は触れ合い、助け合っていく。犬への深い愛に溢れた作品。
2017/12/17
小梅
この物語の主役は「ギヴ」という名前の犬である。素晴らしい映画を見終わったような読後感です。後半は号泣しながら読了しました。
2018/11/09
星落秋風五丈原
本作の語り口は少々変わっている。まず最初にディーン・ヒコックという元兵士がギヴという犬について語る。では彼が通しの語り手になるかと思えばそうではなく、次の章からは太文字フォントで示された「その犬をご覧。」というイントロで始まり、語り手は三人称視点になる。作品で描こうとしたのはギヴと共に生きるアメリカの人々だ。犯罪、天災、戦争と様々な困難に襲われる人々に、そっと寄り添い続けたギヴ。「GIVE」=与える、という意味の英語に一語足りない名前は、出会った人々に優しさと癒しを与え続けてきた名残だろうか。
2017/07/22
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