静かな雨 (文春文庫 み 43-3)
静かな雨 (文春文庫 み 43-3) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
宮下奈都のデビュー作。表題作は文学界新人賞佳作。この時は佳作に終わったのだが、後年の『羊と鋼の森』では本屋大賞他を受賞し、中間小説的なスタンスをとることで作家的成功を収めている。さて、本書は本文中でも明かされるごとく小川洋子の『博士の愛した数式』に大きく触発されて書かれた作品である。ヒロインの"こよみ"さんは事故によって記憶が1日しか保てなくなってしまったという設定である。もっとも、ここでは主題展開は違っていて、時間や行為の継続しないことに有為な非生産性を認めているのである。その点が評価されたか。
2021/08/06
さてさて
バイク事故に巻き込まれたこよみ。三月と三日の長い眠りから目覚めますが、『古い記憶はしっかりしています。ただ、残念ながら新しい記憶は残らない』という衝撃的な事実。でもここからこよみと行助の本当の歩みが始まりました。毎日記憶がリセットされる日々の中で、人生を作り上げていくものは何なのか、という問いかけがなされていくこの作品。宮下さんのデビュー作として、初々しさの残る、それでいて深いところに何かが響く。読んで、世界に触れて、そして、自分の中にすっと染み込んでくる、初々しさが故の味わいを深く感じられた作品でした。
2021/07/20
しんごろ
『静かな雨』…足に障害を持つ行助(ゆきすけ)。記憶障害のこよみ。二人で一緒に暮らしていく中で、時にはぶつかったりしながら理解を深めて行く姿に応援したくなる。行助の家族が心強い。『日をつなぐ』…すれ違ってく若い夫婦の物語。育児の中、育児している真名と仕事で忙しい修一郎。徐々にすれ違ってく不穏な空気を醸し出す。読者に委ねられたラスト。しっかり話し合って二人の幸せを祈りたい。2編とも情景が浮かび、静かで切なくもあるが、優しい余韻を感じる。宮下奈都さんのその後の作品の原点になるような土台のようなものを垣間見た。
2020/08/16
utinopoti27
『羊と鋼の森』で本屋大賞を受賞した宮下氏のデビュー作。会社が倒産し、将来に不安を抱えている「ユキスケ」と、パチンコ店の駐車場でタイ焼きを売る「こよみ」の恋愛物語だ。交通事故で脳に障害を負い、記憶が一日しか保てなくなったこよみだが、捨てること、諦めることを常に前向きに捉えて生きている。一方ユキスケは、そんな彼女と暮らすうちに、こだわりを捨てて自然体で生きる意味を、肌で感じてゆく・・。起伏の少ないストーリーライン、静謐かつ繊細な筆致が、二人の微妙な心の揺らぎを優しく包み込む。心が荒んでいる時に読み返したい作品
2020/08/05
SJW
「静かな雨」と「日をつなぐ」の2つの短編からなる作品。「静かな雨」は文学界新人賞佳作で宮下さんのデビュー作品だが、文庫本が発売されたのは1年8ヶ月前。「静かな雨」はたいやき屋を営むこよみと行助が出会うが、こよみが交通事故に巻き込まれ記憶をすることができなくなってしまう。忘れてしまいすれ違いもあるが、徐々に二人の関係を取り戻す。
2021/02/11
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