悪声 (文春文庫 い 84-2)
悪声 (文春文庫 い 84-2) / 感想・レビュー
田氏
いしいしんじの集大成なんじゃないかなあ、とおもう。いしいしんじというなにかが、これまで出会って見てきた声、聴いてきた景色が、色とりどりの糸となって、共感覚的に交差しながら、ひとつの大きな流れをつくる。流れをつくるからには液体であるわけで、なんならガラスのアモルファスもそのひとつに入れてもいい。液体は音を伝え、流れはあぶくを生み出す。それらは生のメタファーであるし、性でもあるし静、勢、聖、声でもある。なにかのセイが発するゆらめきが、まわりを波立たせながらひろがり、すりきれて小さくなっていくのが聴こえてくる。
2021/05/21
MINA
十数年ぶりに著者の本読む。表現や言葉の使い方が著者独特の優しさに溢れてると感じた。読み終わって数日経つが、今でも目を閉じればお寺の前に広がる風に吹かれたコケが確かな手触りを伴って想起できる。声や音楽、一体どんなものか気になって仕方ない。
2019/08/09
picopico
小説だけど描かれてるのは文字ではない。ことば、声、内側、外側、らせん、命の誕生をゼロから辿る旅。脳内のイメージ、感覚、五感の全てを使って感じる本。与えられるイメージは心地よいものもあれば怖さを感じるものある。無慈悲なこともある。かなし、かなし、かなし。気がついたら涙が出てきたりする。よい本に出会った。読むのに半年かかったけど。
2020/04/05
mngsht
第三章の盛り上がりっぷりから、これがクライマックスでもおかしくないな〜と思って読み進めたが、そこから第四章で話が締めくくられるまでの一転二転三転…と展開が本当に面白かった。大筋だけでなく、途中挿入される人々の記憶のあぶくにも引き込まれる。わたしたち生き物の中に組み込まれた「うた」という意識は、本作が彼の作品の中ではかなり色濃いと感じたし、本作の生に対する見方は、『麦ふみクーツェ』から感じる生そのものへの祝福ということとはまた違った見方だなと思った。感覚で話してる自覚あるので両作品すぐ読み返したい…
2020/04/14
no6
これの前に読んだのがノンフィクションだったものだから、ギャップにしばし戸惑う。寺のコケの上で育つ赤子。突然現れるパジャマ姿の女。人に育てられるようになってからも寺と自在に行き来する子。彼は「なにか」だし寺に住むのは「寺さん」桜を咲かせる「花咲さん」。すごい世界だ。その流れにあっという間に取り込まれてそれが心地良い。心地いいけど流れが激しすぎて長く読んでいると疲れてしまう。なので文庫本なのに読むのに年末年始をまるっと使ってしまう。カバー画=田中敦子《66-SA》、デザイン=征矢武
2023/01/09
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