東京會舘とわたし 下 新館 (文春文庫 つ 18-6)
東京會舘とわたし 下 新館 (文春文庫 つ 18-6) / 感想・レビュー
ろくせい@やまもとかねよし
(上とほぼ同じ)題名の期待から、読後に心地よい裏切りを楽しむ場合は多い。本書は、題名の「わたし」から誰しもが受ける強烈な一人称の印象を、感動とともに清々しく裏切った。「わたし」は個人の「私」ではなく、結果として智慧を紡ぎ育てた人々の総体であると。智慧には、その時その時に開かる壁を超えた成果が不可欠で、それを追求した個人の利己性は尊い。同時に、智慧には、その達成を成熟させる人々の関わりも不可欠で、それは尊い個人の利他性で実現する。東京會舘を想ったすべての利己と利他である「わたし」を、私は決して忘れはしない。
2019/10/06
三代目 びあだいまおう
思い出エピソードの繋がりが神々しい程美しい!建物は竣工の瞬間から老朽化が始まる。老朽か老舗か、同じ『老』でもその未来は雲泥の差。その違いを生むのが人であり、誇りであり、磨き上げの心。仕事における誇りを地道に積み上げ、受け継がれし真摯な振舞いのみが織り成す奇跡の軌跡。伝統に伴う格式、継続的な挑戦。時代の変化と幾度もの絶望的危機を信念で乗り越えてきた東京會舘。その歴史的空間で時を越えて繋がるご縁。訪れる人の数だけ沁み込んだ特別な思い出が詰まり、全話で感動の涙が滲む珠玉の作品に対し上手く感想を表せる言葉が欲しい
2019/10/30
さてさて
想い出というものは人の心の内にあるものであって建物にはありません。でも建物は、そんな想い出の鍵を開ける起点となるものです。時代の変遷によって変えなければならないもの、変えてはならないもの、この選択は日々ありとあらゆる所で行われています。『東京會舘』は、長年に渡って特別な場所であり続けるからこそ、その選択は大きな意味を持ちます。『東京會舘』とそれを守り次の世代へと引き渡していく人たちの熱い想い。そんな想いに触れることのできたこの作品は、それを深く感じ取ってきた辻村さんだからこそ描けた物語なのかもしれません。
2021/03/24
エドワード
表紙の絵のシャンデリア。何層にも重なって輝くその光は、陰影に富んだ灯りに慣れた日本人の目には、豪華な西洋文明の象徴と映ったろう。灯火管制下で結婚式を挙げた静子や、建築や内装に興味を持つ、静子の夫にとっても、東京會舘の建築は興味の尽きないものだった。直木賞を受賞する小椋真護、新館最後の日の結婚式に再び登場する静子。物語は建築が思い出と深く結びつくことを繰り返し描く。地震国日本では、建築物の命は永遠ではない。それでも、旧き建物のよすがを懸命に残そうとする職員たちの建物への愛情がシャンデリアに込められている。
2019/09/16
nanako
新館もよかったです。読んでいて涙が止まりませんでした。東京會舘、近くで働いているのに一度も行ったことがありませんでした。敷居が高いかな?でも、この小説通りの東京會舘なら、温かく迎えてくれそう…。今度行ってみます。 (kindle版での入力をこちらに再入力)
2021/01/30
感想・レビューをもっと見る