象は忘れない (文春文庫 や 54-5)
象は忘れない (文春文庫 や 54-5) / 感想・レビュー
buchipanda3
原発事故を身近で体験した人たちを描いた小説集。過度な演出はなされずに平易な文章で綴られ、あの事故がどんなことをもたらしたのか、どれだけ深く人の心を傷つけたのかが真っ直ぐに伝わってきた。どの話もきれいな終わり方をしていない。解決がなされていないからだ。迷い、後悔、なぜ、様々な灰色の思いを抱えたまま進むのは辛い。「卒塔婆小町」の女性の心の揺れと「俊寛」の男性の煩悶は言葉にならなかった。忘れてしまいたい気持ちもあると思う。でも表面的な締め括りで終わらせず、象のようにずっと胸の奥に留める、それが大事だと思った。
2020/03/02
rico
下請作業員の現実、救助活動半ばで避難した青年の苦悩、避難先で居場所を失い闇を抱えた集団にすがる女性、トモダチ作戦に参加した米兵、帰宅困難地域住民の分断。能の演目を下敷にした5つの物語からは、原発事故で人生を狂わされた人々の悲痛な叫びが聞こえてくる。事故後もなお、ごまかしとりつくろい、終わったことにし、変わらず原発を動かし続けようとする政府や電力会社。それを許している私たちも同罪だ。関連報道は少なくなった。だからこそ、物語として読みつがれていくことの意義は大きい。あの日から9年。忘れない。忘れたりはしない。
2020/03/04
kei302
9年前、何が起きたのか、何が失われたのか。象は忘れない。被災者も忘れない。私たちも忘れてはいけない。文庫解説の千街晶之氏の言葉を重く受け止めた。被災者の分断を許した政府に怒りを覚える。
2020/03/11
さち@毎日に感謝♪
初読み作家さん。それぞれの立場から語られる短編を読んで、東日本大震災を忘れてはいけない。あの事故を忘れてはいけないと強く感じました。
2020/05/02
ばりぼー
「ジェット機が落ちても壊れない」原発の安全を疑わなかった下請け作業員が、現場で爆発に巻き込まれる『道成寺』。福島から避難した母子が、東京で感じた差別と疎外感を「外の敵」に転化する『卒塔婆小町』。被災者支援の〈トモダチ作戦〉に従事したアメリカ海軍兵がPTSDを訴え、東京電力に賠償金を求めようとする『善知鳥』。特定避難地域に指定された住民と、されなかった住民の格差が分断を生む『俊寛』など、三島由紀夫の『近代能楽集』に倣い、能の演目に仮託して原発事故に潜む政府と電力会社の欺瞞を暴いた連作短編集。勉強になります。
2020/03/12
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