くちなし (文春文庫 あ 82-1)
くちなし (文春文庫 あ 82-1) / 感想・レビュー
さてさて
“人のかたちをしている。人だ、と思うとぞくっとする”という千早茜さんの解説が絶妙に物語のあり方を説明してくれるこの作品。そこには、それぞれの主人公たちの内面を見る物語の中に、それでいて、人ではない存在が登場する物語がここには描かれていました。次から次へと展開する不思議な世界に感覚が麻痺しそうにもなるこの作品。人ではないという割り切り感の先に、違う世界が見えてもくるこの作品。現実から少しだけずれた不思議世界が展開する物語の中に誰かを愛するという感情は変わらないことを確認もした、そんな摩訶不思議な作品でした。
2023/10/10
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
死人にくちなしもはやことばもなく、強い香と可憐な花だけを記憶。右腕は愛しいおんなに差しだして左腕はわたしを憎いと泣くおんなにくれてやった。心臓は残しておくべきと妻が嘆くので綺麗な胴体で火葬されてやりましょう。 私たちは人形にしか愛情を注げないし乾涸びた指に根を張る花だけは傷もなく咲かせられる。愛しいといいながら斧をふるい赦すと伝えた頃既に気持ちは無関心に変化している。花のように散るらむ。蛇になってバリバリと喰らうのが愛?いとしい人の血肉になりたい?私の墓には、どうか春になると花を咲かす木をうえてください。
2021/02/19
アッシュ姉
なんだこれは!悪夢か?ホラーか?怪異譚か?幻想ファンタジーか?いや、彩瀬まるの愛の物語だ。短編ごとに違う顔を見せ、時代や舞台もくるくる変わる。おぞましく、恐ろしく、切なく、妖しく、美しい。度肝を抜かれることしばしば。本を読んでて二度見したのは初めて。おそるべし、まるワールド。頭の中をのぞいてみたい作家さん上位に急浮上。全編堪能できたなか、「愛のスカート」と「茄子とゴーヤ」がお気に入り。大人向けと感じたが、高校生直木賞受賞作品とのこと。今どきの若者は凄いと思うと同時になんだか嬉しい。
2021/08/03
sin
自分たちは何かで在りたいと熱望する者達の幻想を介したリアルな絵空事だ※愛は独りよがりでときに肉欲より不純に染まる。※花虫の司るものはホルモンに支配された愛と同じく…※一途で純粋な愛は身勝手で、愛を意図する者は八方美人だ。※男も女もその本性はけだもの、喰らい尽くす究極に憧れる。※身近で遠い家族の愛情、伝えなければ伝わらないのに…※解っている…と云う傲慢では人を理解し得ない。※人は同じで皆違っている。誰とも違ってしまった彼女の生きざまに否はない、その記録は優しく友を語り続ける。
2020/04/15
mayu
昼と夜のように私たちはすれ違う。例えばあなたへの愛ゆえに鳥や蛇に姿を変えたとしたら、あなたは受け入れてくれるのかしら。私は二人幻想の中へ堕ちてゆくことを望むでしょう。想い合う者にしか見えないという美しい花。例えば虫が見せた幻だとしたら、それでもあなたは私と一緒にいてくれるのかしら。私は耽美な夢にいつまでも溺れることを選ぶでしょう。独特の世界観で描かれた短編集。愛することのままならなさすらも美しく思えた。
2020/09/01
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