色仏 (文春文庫 は 55-2)
色仏 (文春文庫 は 55-2) / 感想・レビュー
ふじさん
故郷の月無寺の十一面観音以上に美しく艶めいた仏像を彫るために故郷も仏の道も捨てた人形師・烏をめぐる連作で、人間の持つ色欲という業に焦点を当てた作品。登場人物は、烏、沙那丸、真砂、茜、梨久、猿吉、篠吉等、個性的な人物揃いだが、何と言っても愛する男の片腕を切り取るほどの愛情で欲望のままに男を求め、男女の交わる喜びを知っている真砂が放つ香りや輝きには圧倒される。幕末の京を舞台に、男と女の絡みつくような情欲と人間の業の深さを色濃く描いた花房観音の集大成と言える官能時代小説だと思う。
2023/01/26
スリカータ
久々の花房観音さん。今回は初めての時代小説。捨て子でお寺で育てられた烏という男が、十一面観音像に魅せられる。初めの掴みは良かったが、思い描いていた方向と違った流れだった。個性的な登場人物のバックヤードをもっと描いて欲しかったと思う。もやっと分からないことは分からぬまま。途中、しんどくなったが何とか読了。主人公の烏よりも真砂の方が強烈な印象を残した。
2021/09/20
桜もち 太郎
官能時代小説というがもうここまで来たら官能の冠を外してもいいと思う。ペリー来航の時だから1853年あたりの物語。とにかく真砂という女の情念がすさまじい。猟奇的でさえある。そんな女の背には十一面観音像が彫られている。その見事さに打ちのめされた主人公の烏(からす)という男の物語だ。木彫りで観音像を彫りたい、この世で最も艶めかしく、全ての男がひれ伏すような観音像を。しかし自分には何かが足りないと感じる烏。27歳にして女を知らない致命的な弱点があったのだ。ただやればいいものではない。→
2021/10/18
coldsurgeon
江戸末期の京都を舞台とした、男と女の絡みつくような情念、欲情、執念が練りこめられた物語だった。性と生とが一つの時代の中で、色濃くうごめいていた。仏師ではないが観音菩薩像を彫り上げたい男は、多くの女人の裸体をモデルとして女人像を依頼され彫り上げていたが、目の前にあるものを写し取るならばたやすいが、己の中のものを形にすることは難しいことを気づかされた。もし形作れるとすれば、人を欲情させ、地獄に連れて行くようなものとなっていただろう。
2023/06/18
春の夕
著者初の官能時代小説であり、私自身にとっても初めての官能作品だった。この物語の性愛描写はその躰を生きる証憑とでもいうように、本能と魂の相牴牾するものに焦点をあてて描かれているから、果てなく無様でいとおしくなった。
2022/01/27
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