切腹考 鷗外先生とわたし (文春文庫 い 99-2)
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切腹考 鷗外先生とわたし (文春文庫 い 99-2) / 感想・レビュー
メタボン
☆☆☆★ 森鴎外のテキストを通奏低音として、切腹マニア、城下町熊本、阿部一族、アメリカでの夫の介護そして死、熊本の地震について綴る。伊藤比呂美が良く言う「声を借りながら」。最後の声「森林太郎トシテ死セント欲ス」が頭の中を駆け巡る。
2024/10/07
山ろく
著者は当時熊本在住の詩人。自伝エッセイの冒頭には切腹マニア宅を訪問した体験を描いた表題作。次に副題の「鴎外先生とわたし」では鴎外の翻訳物の語尾から漢詩のリズムを体感し、続く「どの坂もお城へ向かう」では熊本の地に鴎外作品を重ね合わせる。外国の生活と帰国の迷い、英国人の夫の生活と夫の死、熊本地震などを重ね合わせながら、日本人が人目を気にしながらも人を好きではないことや夫婦の間の問題とはつまるところ何なのかなどが記される。実は出てくる鴎外作品にまったく疎いのだが、鴎外が作品で繰り返し描いた女性像は興味深かった。
2024/03/03
kuukazoo
初期の頃に切腹マニアの詩がありそっち方面かと思ったら(最初にその話は出てくるが)、森鴎外作品の読み解きに夫の看取りと熊本地震が絡み合い、文芸エッセイのつもりで読んでたらとても打ちのめされ放心。私小説からもはみ出すような。個人の命は軽く死を以てプライドや忠誠心を示す思考回路が埋め込まれた武家の悲劇を通し鴎外が描くもの。そして現代に生きる人も家族や社会、身体や自然のままならなさに苦しみつつ生きる。死んだ夫(画家)の大量の絵どうすんの問題とか育ちすぎた庭の木々を巡っての隣家とのトラブルとか身につまされて泣ける。
2023/05/16
kankoto
最初の一遍、切腹を見た体験が描かれていていきなり生々しい世界に、そしてああ、伊藤比呂美だって思う。(町田康との対談は応戦一方だった印象だから) 鴎外作品に絡めての彼女自身の出来事。鴎外作品そのものだったり。元夫との暮らし、異国人の夫を看取った話。この作品はなんだろうとこの一冊はなんだろうと思った時、これは伊藤比呂美の私小説なんじゃないだろうかと思った。とても生々しい手触りの。そしてその中に鴎外作品がある。それは作者の中の鴎外作品。
2022/06/01
Masakazu Fujino
やっぱり伊藤比呂美は面白いなあ。こんなことを考え、やってきたんだなあと改めて感心した。
2022/04/30
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