猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷
猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷 / 感想・レビュー
寂しがり屋の狼さん
家に帰ると猫がいた。からからと格子戸を開けると玄関の上がり口にちょこんと座り、真ん丸い瞳で私を見上げていたのだ。まるで妻がそこで「お帰りなさい」と言っているかのように。「ただいま」と声を掛けた。けれども、妻は出て来ない。返事もない。妻の返事がない代わりに猫がにゃあと鳴いて私を見上げる。「お前」…思わずそう呟くと猫が頷いた。それで、ああ、そうかと納得したのだ。これは妻なのだ。猫になった妻なのだ。…冒頭の数行で物語の世界に引き込まれました(◕ᴗ◕✿)さすが小路さん💕
2023/05/05
ヒロ@いつも心に太陽を!
『家に帰ると妻が猫になって玄関で帰りを待っています。』某爆笑エッセイの題名を真似てみたが、優美子さんは和弥が「為すべきことを為すとき」が訪れる前にしか姿が変わらないところが違う。実は初・小路作品。非常に好みの雰囲気。幻想小説とわかっていても、蘆野原の郷のような場所があったのではないかと思わされてしまう。《為すがままに、或るがままに》長く受け継がれてきたものを無下にするわけでもないが、新しい時代の風を否定することもせず、ゆうるりと受け入れてつないでいく。そういう蘆野原の人々の姿勢も私には好感がもてた。
2011/12/14
あつひめ
「猫」という文字に反応して予約した1冊だけれど、不思議な空気感がとても気に入った。玄関に三つ指をつくように座って主人をニャンと迎える。一般に黄泉の国と呼ばれる場所の長筋として生きてきた男の嫁には、猫に姿を変える妻はやはり昔から決まっていた縁ではないかと思わないではいられない。災いと言う凡人では感じ得ない臭いとでも言うか、そういうものを封じていくときに長筋の力だけではなく、「猫」としての不思議な力を借りながら解決していく様は、こんがらかった糸がほどけていくような少しずつスッキリしていくような感覚を覚える。
2013/11/01
紫 綺
小路さんの新境地的作品。世の中の事を為すイコール厄災を祓う。陰陽師の安倍晴明のようで、微妙に異なる。登場人物の誰もが飄々としていて、個性的な者ばかり。主人公と猫になる妻は、神様のカルテの一止夫婦のようで、何とも微笑ましい。是非とも続編を出して欲しい、お気に入りの作品。
2011/09/21
ちはや@灯れ松明の火
姿は変われども、傍らに寄り添って。吹く風の中に、流れる水の中に、古より息づくこの世の理は在り、厄もまた潜む。此岸の境目に佇む蘆野原の青年二人、厄を祓い事を為すべく与えられた業。そっと支える優美な手、人から猫へ、猫から人へと移ろう容もまた、事を為すために。降り積もる日々が時代の色を変えていく。吹き去った風も流れ落ちた水も元の場所には戻らずに、人の世を見守って来た郷は深い眠りへ就く。けれど、親から子へと生命が繋がっていく限り、決して失われることはない。人は偲ぶ、遠くに在る懐かしい郷を、傍らに居る愛しい人を。
2011/11/03
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