満つる月の如し 仏師・定朝
満つる月の如し 仏師・定朝 / 感想・レビュー
藤枝梅安
仏師・定朝の唯一確証のある作品である、平等院鳳凰堂の本尊、国宝 阿弥陀如来坐像が作り出されるまでの物語。筆者は史実を基に、想像力を駆使して、複雑な貴族社会の確執の中で誠意を貫こうとした人々の苦難を描き、その苦悩の中から生み出されたのがこの坐像であるとの説を展開する。定朝を励まし鼓舞した僧・隆範と定朝との交流を中心として、この坐像のモデルを一人の女性と定めて書き上げた特異な作品である。人物が多く筋があちこちに飛び、やや冗長(定朝だけに?)な展開だが、それも平安貴族の生活を感じさせるためだろうか。
2014/12/03
さつき
平安時代。一家より三后を立て栄華を誇る藤原道長の時代。貴族の煌びやかな生活の一方で、窮民が増え人心の荒廃は進んでいる。苦しむ者たちをなぜ仏は放っておくのか。貴族のため美しい仏像を作ることに何の意味があるのか。仏師として稀有な才を持つ定朝の問いには心をえぐられる思いです。道長により皇太子を下ろされた小一条院と、彼を一途に慕う中務の悲恋には涙しかない。様々な人の思うに任せない人生が描かれる中、その中心にいらっしゃるのは月のように優美な阿弥陀様。定朝、隆範の思いが降り積もっているだろうお姿をぜひ見てみたい。
2021/04/15
ケロリーヌ@ベルばら同盟
時は、望月の欠けたることなき藤原道長の治世。若き叡山の学僧と市井の仏師の出会いから始まる壮大な歴史物語。和様の仏像彫刻様式にその名を遺す定朝。「尊容満月の如し」と讃えられ、仏師として初めて法号を得た稀代の名匠ながら、現存する作品は唯一、平等院本尊阿弥陀如来坐像のみ。平安時代の事とて、生年すら定かではない人物が、藤の蔦の如く絡み合う貴族社会の権力闘争と、災疫と飢えに苦しむ民との乖離、道長の野望により人生を狂わせられる悲劇の貴公子らを絡め、末法の世を背景に緻密に造形され、鮮やかに浮かび上がる。夢中で読了。
2021/03/30
南北
平安時代の仏師定朝の成長物語といったところだろうか。といっても定朝を中心に描くわけではなく、敦明親王や藤原彰子を初めとするさまざまな人物たちの群像劇となっている。貴族にも庶民にもそれぞれ悩みや苦しみがあり、それぞれの思いが交錯する様子には引き込まれるものがあった。平等院鳳凰堂の阿弥陀仏に定朝がこめた想いを想像してみると感慨深いものがある。
2021/10/17
shikashika555
澤田瞳子さんらしい、若き才能の成長物語。 主人公2人もさることながら、この作品では脇役がとてもとても魅力的だった。 寺稚児であった甘楽丸、小諾、敦明親王に中務。 どの人物もスピンオフ物語があれば とても読み応えのあるものに違いない。 定朝が己の仕事に向き合おうと思えたのも、隆範ではなく甘楽丸の言葉があったから。 寺しか生きる場がないのに 祈りの虚しさを感じるしかない境遇にあった彼は、隆範の影のように生き 流罪の時も荒行においても行動を共にし そして静かに死んでいった。 甘楽丸の語りを 聴いてみたい。
2021/07/02
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