電球交換士の憂鬱 (文芸書)
電球交換士の憂鬱 (文芸書) / 感想・レビュー
れみ
「電球交換士」を名乗り様々な場所の電球を取り替える十文字扉が主人公のお話。現在のような近未来のような不思議な空気感のなかで、電球交換の仕事や行きつけの飲み屋で知り合う人などとのやりとりで淡々と物語は進みつつ、十文字を密かに「見ている」人の存在などミステリーのような要素にドキドキさせられる。すごく盛り上がるところがあるわけじゃないけど、こういう空気を味わうのも読書の楽しみのひとつだと思わせてくれる。
2017/10/25
nico🐬波待ち中
電球交換士。この一風変わった肩書きを持ち、自身を不死身な男と自負する十文字の物語。行きつけのバーのカウンターに十文字たち常連客が揃いとりとめのない話をする様が好き。べったりじゃなく程よく距離を置く。でも仲良し。吉田ワールドはこんな穏やかな夜が似合う。私もみんなのお喋りに交じりたい。そして十文字の作る卵サンドが食べたくなる。不死身って羨ましいようだけれど、知り合いが居なくなっても一人この世に居続けるのは寂しい。いつか終わりが来るから今を楽しめる。限りある時を精一杯に生きる大切さをしみじみ感じた物語だった。
2021/09/23
ひめありす@灯れ松明の火
『交換してください』彼女の声が熱を帯びた様に発光して響いた。『あなたの手で』この帯の文句がこの作品の全てだ。確かな熱を持つ温かな輝き。命のおわる間際の電球が作る、珈琲色の柔らかな世界。人の曲線を彷彿とさせる、電球の滑らかな硝子。不死身の電球交換士が今日もどこかで切れそうな電球を繋いでいる。照らしているのはそこにあるモノだけじゃなくて、その過去や未来や、思いを。終わらせたくないモノがある。いつもより少しハードボイルドで、いつもより少し隙のある世界。だからこそ、この物語は地続きに私達のすぐ傍に存在していそうだ
2016/06/23
nyanco
タイトルに惹かれて…吉田 篤弘さんの作品、あまり読んだことは無いのですが雰囲気が良かったです。三崎亜紀さんの作品に登場する職業ほど突飛でない、しかし現実には居ないようで、もしかしたら何処かに…と想わせてくれる感じが素敵。一見やる気が無さそうでありながら、仕事に、そして十文字電球への思い入れの強さも良かったです。いきつけのバーの面々、かかりつけの医者、精神科医と、登場人物たちがとても魅力的。カレー屋や、和菓子の店、食べ物も店主も素敵でした。続→
2016/03/02
そうたそ
★★☆☆☆ 電球交換士なる職業の男十文字扉を描いた連作集。もっとメルヘンチックな話なのかなと思いきや、意外にそうでもなかった感じ。とはいっても、いつもの吉田さんの世界観は損なわれておらず雰囲気はそのまま。ちょっと思っていた感じとは違って、個人的には期待はずれという感じかなあ……。「電球交換士」なるものを登場させる辺りは、吉田さんならではの発想。電球交換なんてこれからますますしなくなっていくんだろうなあ、とつくづく。LEDが普及していく世の中ではあるが、普通の電球の良さもまたあるんだけどなあ……。
2016/04/04
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