永久帰還装置 (ソノラマ文庫 か 9-1)
永久帰還装置 (ソノラマ文庫 か 9-1) / 感想・レビュー
H2A
ボルターという犯罪者を追って火星にたどり着いた永久追跡刑事という設定。刑事と、その意図を探る情報分析者どうしの延々続く解釈の連鎖。設定だけなら、いかにもなSFだが、やはり二転三転する事実の突き崩しに幻惑され、終わってみれば、恋愛ものと知的揺さぶりとがごった煮になったハードボイルドだった。わたしはその不安定な現実を巡って虚しく続くチームの議論とロジックの転倒、アクロバットな情報操作ぶりに感心。神林ワールドというのは、こういう居心地悪さをむしろ楽しめるかが全てではないだろうか。
2016/11/16
おぎにゃん
リンガフランカーが、ボルダーが、マグザットが、物語世界の住人の記憶を、記録を、自由自在に改変する。そんな世界で必死に戦うケイ・ミンが最後に得たものは、本当に「真実」だったのか、それとも「解釈」に過ぎなかったのか?…深く考えるほどに、頭がクラクラしてきて、答えがわからなくなる。何度も繰り返される「事実は解釈から生まれるのだ」と言うフレーズのせいに違いない。だが、このクラクラ感覚こそが「センス・オブ・ワンダー」なんだろうと思う。名作である。
2014/03/15
卯月
再読。小型宇宙機にて冬眠状態で火星に現れた謎の男・小鴨蓮角と、覚醒した彼を尋問する戦略情報局の女ケイ・ミン。神めいた敵が相手でも、情報局の面々は有能だ。事実は解釈によって成り立つ。情報局は事実を改変せず、編集する。相手が繰り出す言葉を聞くだけで自分の存在基盤が崩れていくような感覚は、さすが神林作品。だが(少なくとも私が読んだ範囲の)神林作品には珍しい、大人の直球ラブストーリー。幼少時に蓮角を捨てて出て行った母への思慕は、それから何年経っていようと切ない。ケイの飼い猫サヴァニンとの関係も。猫好きは読むべし。
2012/12/16
ゆーいちろー
ずいぶん久しぶりの再読に、内容は全く覚えていなかったのだが、こんなにも派手な物語だったかと少し驚く。前半、いかにも作者らしいこの世界の虚構性を軸とした観念的な世界観を提出しつつ、基地脱出あたりからは、アクションかつ蓮角とケイ・ミンのロマンスが現れ、最後にはオーキー・タスクフォースを中心にした、戦略情報局一丸となった大諜報、工作戦へとなだれこむ。最終盤、真のボルタ―は誰だ的な、心理戦もわずかにあったりして…娯楽性と神林世界観がこれほど相性よくおさまっている作品は珍しいのでは?隠れた神林作品の名品と思う。
2013/08/22
katka
事件の起こりは『宇宙探査機・迷惑一番』に似ています。もちろん本作はコメディではありませんが、主人公フランク・カー(仮)のキャラはシリアスとも言いかねる。神林作品の系譜では「脳天気」と「正義」に興味深い比較があって、脳天気の見本は『天国にそっくりな星』脳天気な正義を実践しているのは『敵は海賊』シリーズを挙げられます。フランク(仮)のふてぶてしいまでの達観はまだ先に続くようです。「人生とは、そういうものだ」なんていう……再話ごとに新しい世界シチュエーションを得て進んでいく。
2023/10/02
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