居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)
居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく) / 感想・レビュー
ネギっ子gen
愛好する『シリーズ・ケアをひらく』の一書。大佛次郎論壇賞。当然の受賞というより、よくぞ、という思いがある。なぜなら、ケアは見えにくいから。作者自身も<「ただ、いる、だけ」。その価値を僕はうまく説明できない>と書いている。その小さくて見えづらいケアを、精神科デイケアを舞台に軽妙な筆致で描き受賞したのだから、賞選考委員の見識に嬉しくなった次第。さらに著者は書く。<「ただ、いる、だけ」は、風景として描かれ、味わわれるべきものだ。それは市場の内側でしか生き延びられないけど、でも本質は外側にあるものだ>と。同感だ。
2020/01/24
ふう
副題は「ケアとセラピーについての覚書」。ガラスドアの外から眺めて少しわかった気になっていたけど、ドアを開けて見てみると二つは似ているようでも違うものでした。違ってはいるけどどちらも繊細で大切なものだということが、軽めの表現で分かりやすく書かれています。気づかされたり納得させられる説明もたくさん。ただ、明るくユーモラスに描かれているけど、やはりそこにあるものはとても重く、書ききれないこともあるようです。とくに別れや退職に至るまでの場面では、作者の葛藤や痛みが伝わってきて胸がつまりました。
2020/07/15
ケイトKATE
福祉において、最も重要なことはただ「居る」ことである。「居る」ことで、人は居場所と生きがいを見出すことができる。しかし、一方で「居る」ことは、当事者と介助者を追い詰め傷つくのも事実である。本書は、沖縄の精神科デイケアで臨床心理士として働いていた著者が、体験に基づいて「居る」を巡って考察し、福祉の現場を分かりやすくユーモアを交えて伝えている。福祉において、生産性を求める政治家や役人、経営者はもちろんのこと、大なり小なり福祉に関わる人は是非読んでみてほしい。
2021/04/30
アキ
臨床心理士が精神疾患患者のデイケアで必要だったのは「ただ居るだけ」。沖縄での個性的なメンバーたちとの4年間は振り返るとかけがえのないものであった。毎日なにも変わらないことを続けることが目標のデイケアは円環的時間で、ケアすることでケアされる、ケアされることでケアする投影の世界。ケアの方がセラピーより古いが、経済収益的にセラピーにはお金がつきやすくケアにはお金がつきにくい。精神分析家ウィニコットによる依存労働もそうである。ケアの日常のエピソードにポストモダン哲学が挿入されて、まとまりのなさがいい加減であった。
2021/01/25
藤月はな(灯れ松明の火)
院を卒業し、在野での臨床心理学を極める意欲に燃えていた作者。就職に掲げる3つの信条に叶う仕事場に就職した作者が、そこで見出したのは、蔑ろにされがちな「いる」事の重要性だった。最初のケアに対し、上から目線な作者にカチンとしましたが、ユーモラスな文章の為、不快さもなく、スイスイ、読みました。しかし、書かれている事は結構、ハード。何もしなくても「自分はここにいても良いんだ」と思える場が少なくなっている事。ケアする人のケアが疎かになる事に因る離職率の高さ。その根底にあるものは私達の中にもあるからこそ、無視できない
2019/06/13
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