災厄の絵画史 疫病、天災、戦争 (日経プレミアシリーズ)
災厄の絵画史 疫病、天災、戦争 (日経プレミアシリーズ) / 感想・レビュー
パトラッシュ
人類の歴史は災厄の歴史だ。ペストに侵され、食物が枯れ、神の名の下に殺し合うなど夥しい犠牲者を生んだ天災、疫病、飢餓、狂気などをキャンバスに記録しようと、画家たちは筆をとり続けた。そこで描かれるのは人の無力さ愚かさを証明する悲惨な死の数々であり、地球とは死の世界ではないかと思わせる。掲載された絵画の多くを実際に見たが、トレチャコフ美術館では「過去、現在、未来の偉大な征服者に」捧げられた『戦争礼賛』に圧倒された。今こそプーチンはこの絵の前に立ち、ウクライナの野に頭蓋骨が積み上がっているのだと認めねばならない。
2023/02/12
みっちゃん
天変地異、疫病、そして戦争。古えから人類を危機に陥れてきた災厄。その非情さに泣かされるのはいつも弱い立場の民衆、その怒りや悲しみを画家達は絵画に残してきた。筆者の詳細でわかりやすい解説によって、1枚の絵に込められた画家の真意、歴史的背景も浮かび上がってくる。が、疫病や自然災害は避けられないとしても、戦争はお互いの叡知や歩み寄りで避けられるのではないか。1番恐ろしかったヴェレシチャーギン『戦争礼賛』荒野に山と積まれ、死して尚、悲鳴や呪いの言葉を吐いているようなしゃれこうべを見て思う。
2023/03/31
KAZOO
この著者は本当に海外の絵画をうまく紹介してくれる本が多いと感じています。この本も最近の世界の状況などから選んだ絵画をわかりやすく説明してくれています。このような絵ばかりをよく集められたとおもいます。惜しむらくは新書という事で迫力が薄まってしまっているのではないかと感じました。最初のフランツ・シュトゥイックの「ワイルドハント」などは現物で見たい気がします。またアルノルド・ベックリンの「ペスト」はバーゼル美術館で見たことがあり再度見てみたい気にさせてくれました。
2023/12/21
読特
「絵画は見るものではなく読むものだ⁉」と教えてくれた中野先生。災厄は遭うものではなく、鑑賞するものでありたい。自然災害に戦争、そして疫病。ペスト、梅毒、コレラ、結核、天然痘。医療が未発達の時代のパンデミック。未熟な土木での天災。身近に迫る死の恐怖に感情を揺さぶられ筆を執る。出来上がった作品は後世に残る。医学の発展、インフラ整備、平和外交。現代に生まれて一安心?…911と311、新型コロナにウクライナ危機。人類は災いを克服できていない。武器の発達で被害が激化。幸か不幸か、芸術作品はまだまだ生まれるのだろう。
2023/02/08
keroppi
コロナ、ウクライナ戦争、大地震、災厄が地球規模で襲っている今、過去の災厄を芸術家たちは、どう見ていたのかを語る。次から次へと登場する絵画は、人間の苦しみ、悲しさ、そして無力さ、愚かさを描いている。人間の歴史は、災厄の歴史であったのだ。だが、その時々で、その災厄を乗り越えてきた人間もいるのだ。今ある災厄も乗り越え、今の災厄を芸術に昇華し、また後世に伝えていくことになるのだろう。
2023/03/01
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