大きなハードルと小さなハードル
大きなハードルと小さなハードル / 感想・レビュー
ねなにょ
70年代後半~80年代の設定で、季節が真夏ということも手伝って、暑苦しく、重たく、気が滅入る短編集。Ⅰの連作短編の主人公、秀雄は、ろくでなしだし、『鬼が島』は、ビリヤード場の辺りまでは良かったものの、だんだんドロドロしてきちゃうし、『夜、鳥たちが啼く』が唯一、ほんのちょっと希望が持てる感じか? この小説に登場する人物が案外リアルに感じられるから余計に鬱陶しく感じてしまったのか??
2021/07/01
丘野詩果
タイトルは主人公秀雄と妻光恵の話の連作で、何年後の話かは、娘の陽子の年齢でわかる。『美しい夏』では、まだ生まれていなく、『野菜鼠』では2歳8カ月。『大きなハードルと小さなハードル』では、5歳。『納屋のように広い心』では5歳2カ月。『裸者の夏』では6歳10カ月。娘がすくすく成長して、一見幸せな家庭にみえるのに、いつも幸福ではない。季節はいつも夏が描かれる。何を求めているのか、どうしたいのか、本人すらわからないもどかしさ。佐藤氏の小説の女性は常にしっかりしていて強い。後半は、高橋と文子の物語の連作。
2016/10/18
あい
「夜、鳥たちは啼く」が映画化されたとの事で、久しぶりに佐藤泰志作品を手に取りました。やっぱりこの空気感と硬質な文章が凄く好き……! Ⅰは主人公秀雄とその家族の風景を切り取った5篇、Ⅱは主人公とシングルマザーの女性との関わりという共通点がある2篇。「鬼ヶ島」が特に印象的でした。秀雄=著者自身を投影した私小説なのでしょうか。一緒にいるのに孤独で、分からないから知りたいと思う、手に入れたいと思う焦燥感に共感。松本まりかさん好きだから映画も見に行きたいな。
2022/12/11
horuso
5つの連作短編と、短編2つ。連作短編は、「美しい夏」はよかったが、その後DV、アル中と転落していく主人公には、たとえ再生が描かれていても共感できなかった。残りは、いずれも20代半ばぐらいの青年が、シングルマザーとくっついたり、そういう女性と別れて違う女性と暮らしている話。相性がいいのだろう、読んでいて心地よい。昔のATG映画と言われればそんな気もする。『海炭市叙景』のエピソードがいくつか出てきたが、バルザックの人間喜劇のように同一人物が登場するというよりは、同じ素材を何度も使うタイプの作家だったのだろう。
2020/12/25
hirayama46
「秀雄」を主人公にした前半部と、ノンシリーズの長めの短編を収録した後半部に分けられます。前半部の主人公はやはり作者自らの投影なのかな。/この本全体として、どことなくだれといっしょにいても孤独なような、幸福が存在していてもどこか別の所にあるような、そんな世の中とのすれ違い感がある気がして、なんとなく共感してしまうのです。作者の最期を知ってしまっているからかもしれません。/最後の「夜、鳥たちが啼く」はどことなくポジティブだったかな。
2012/02/26
感想・レビューをもっと見る