ひとり日和
ひとり日和 / 感想・レビュー
遥かなる想い
第136回(平成18年度下半期) 芥川賞受賞。 二十歳の知寿と71歳の吟子さんが 暮らした春夏秋冬の日々を 鮮烈なタッチで描く。 読んでいて昔ながらの縁側に 腰かけている思いがするのは 吟子さんの人物造形の おかげなのだろうか。 同居の最初にあった二十歳と 71歳の距離が徐々に縮まって いく… 「人っていやね。去っていくからね」 という言葉が心に痛い… 吟子さんとの日々を心に 残しながら、自立していく知寿の 視線が印象的な物語だった。
2014/01/18
やま
三田知寿の成長を春夏秋冬と春の手前の5つの四季の移ろいの中で描いた物語です。 知寿は、母が仕事で中国へ行くのを機に、住まいを埼玉から東京の会ったこともない遠い親戚のおばあちゃんの家へ居候する事とする。 おばあちゃんの吟子さんが知寿の部屋として用意した一間は、鴨居に死んだ猫の写真が額縁には入って23個も飾っている、部屋全体が仏壇みたいな辛気ぐさい部屋でした。 知寿は、この吟子さんの家からアルバイトをし、恋をし、セックスをし、別れを経験しと成長していきます。🌿続く→
2022/01/01
パトラッシュ
芥川賞の傾向を見ると、普通でない人と普通と思われる人の衝突を描く物語が選ばれるのが多い。本書もその一例だが、あまりに向上心を欠いて奇妙な盗癖を持つ知寿は「普通でない」部分がピンとこず、逆に老いらくの恋を楽しむ「普通の人」である吟子さんに好感を持ってしまう。しかも2人には激しい対立もなく、互いに干渉せぬよう気遣う奇妙な同居生活は淡々と進み終わる。受賞時に石原慎太郎と村上龍が高く評価したと聞くが、時代の風俗を鋭く切り取った両者の受賞作に比べ突き抜けるものがない。ここまで変わり果てた若者のあり方に驚かされたか。
2020/10/04
じいじ
なんとも言えない長閑で爽やかな読み心地の小説である。(これまで読んだ小説になかった感触で、うまい言葉が見つかりません)。或る日、ワケあって20歳の娘・知寿が、71歳独り暮らしの老婆・吟子の家で暮らすことに…。年差のある二人の微妙な距離感が絶妙で一層の面白さを掻き立てます。とにかく仲が良いのだが、ある地点からは、互いに踏み込ませない踏み込まないのです。知寿の一見冷めた性格、もって生まれた空気感が、なんとなく好きになっていきます。じんわりと心に沁みる素晴らしい小説です。
2018/09/06
R
モラトリアムとは少し趣が違う、自立という言葉を「ひとり」と言い換えたような物語だった。不思議な家族関係と、遠い親戚との共同生活、下宿するという言葉がぴったりとあてはまる生活が、なんとなく始まって、なんとなくなじんでというあたりがすごく生々しい。その状態が誰かの庇護下でもあるのだが、それを経てひとりで生きることと向き合ったときの別れというのが描かれ、本当の巣立ち、あるいは、自立といったものを想起させてよかった。なんでもない話なんだが、時の流れと人の移ろいが見えた。
2023/02/27
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