掏摸(スリ)
掏摸(スリ) / 感想・レビュー
遥かなる想い
第4回(2010年) 大江健三郎賞受賞。 小気味良い小説である。 「掏り」をはたらく男の視点を 通して、悪の快感を描く。 ひどく痛快なのは誰もが 心に抱く悪への憧れを、端的に 物語に反映したからなのだろうか。 堕ちていく人間の腹ぐくりのような ものが、昔の任侠映画を見るようで 単純に楽しめる展開になっている。 人の運命を操ろうとする木崎という男の 狂気が不気味で読者を離さない。
2013/11/17
starbro
中村文則の未読の旧作7連続シリーズ第六弾は「掏摸」です。出生、成長期に陰鬱さのある主人公ですが、初期作品よりも暗闇が薄らいでいる気がします。ノワールでありながら、希望の光が見える感じがします。ラストは「掏摸」の姉妹作の「王国」です。
2015/05/16
みも
電車内での反社会的行為という点に、大江健三郎『性的人間』との相似を感じる。その動機も切迫した止む無きものではなく、自己肯定やアイデンティティ確認の為の犯罪という点に於いて、共通項があるか…圧倒的な孤独感と自棄的な虚無感の中で危うい均衡を保ちつつ生きるが、自らの死を意識したその刹那、運命を委ねるが如くコインを投じる。時折現れる塔のイメージは「バベルの塔」か。それはすなわち神への挑戦、神の警告、生の傲慢への戒めであろうか。示唆に富み「運命」という名の不条理や人間の尊厳をも問いかけ、思索の深海へといざなう秀作。
2020/08/10
文庫フリーク@灯れ松明の火
「背中で右側の人間達の視界を防ぎ、新聞を折りながら左手に持ちかえゆっくり下げ、陰をつくり、右手の人差し指と中指を、彼のポケットに入れる(中略)息をゆっくり吸い、そのまま呼吸を止めた。財布の端を挟み、抜き取る。指先から肩へ震えが伝い、暖かな温度が、すこしずつ身体に広がるのを感じる(中略)緊張する指と財布の接点に耐えながら、折った新聞に財布を挟み、右手に持ちかえ、自分のコートの内ポケットに入れる。息をすこしずつ吐き、体温がさらに上がるのを意識しながら、目で周囲を確認した。」これが純文学ならば、私は長年→
2014/12/01
ホッケうるふ
巻末に記された参考文献の最後にあるロベール・ブレッソン監督「スリ」。1960年製作のこのモノクロのフランス映画は1人のスリの青年の生活を淡々と描き特にそのスリテクニックの自室での特訓と実地の犯行をカメラが執拗に追う静かな傑作。この映画の虚無的な雰囲気と感情を表さない主人公はこの作品と完全にダブり強い影響がうかがえる。映画で語られる実在のスリの話や英国スリ生活、逮捕され運命が破綻した結果ヒロインとの愛で生を確認するラストなどもこの作品における関連を感じる。いずれにせよ映画を見ているような映像性を感じる一作。
2013/12/16
感想・レビューをもっと見る