屍者の帝国
屍者の帝国 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
伊藤計劃の遺稿をプロローグとして、円城塔が本編を書き継いだ遠大な構想の物語。円城の文体は『道化師の蝶』よりもずっと平明だ。基本的には全編を通してアイデンティティが問われてはいるのだが、ここでは「個」としてのそれだけではない。人間あるいは人類全体にとってのアイデンティティ―すなわち人間だけが持つ(もちろん異論はあるだろう)「意識」とは何か、あるいはそもそも人間とは何なのかが問われ続けている。「生者」と「屍者」の2項対立を軸に、物語は『旧約聖書』から『フランケンシュタイン』へと縦横無尽に駆け巡るのである。
2013/07/28
Koning
スチームパンクと見せかけつつファンタジー?的なんだけど、登場人物の名前から出て来る小道具の至るまで名詞でニヤニヤしてしまうという危険な小説。まさかMさんて教授じゃなかろうね?(汗。基本虚構の積み重ねとある種のパロディー的な組み合わせなんだけど、まさかのノストラティックまで引っ張りだしてやらかしてくれたのには脱帽。コリント前書を前の書だっけ?微妙な表記はあったけど、KJVだろうから明治訳の文語聖書引用でOKとか。
2013/07/10
紅はこべ
歴史上実在の人物と物語上の架空の人物が共存する世界。007、ホームズ、フランケンシュタイン、ドラキュラ、風と共に去りぬ、カラマーゾフの兄弟といった様々な文学世界が背後にある。ここで描かれる屍者とはアシモフ定義のロボット的なゾンビか。世界観は攻殻機動隊に通じ、結末はヴィリエ・ド・リラダンの『未来のイヴ』を彷彿とさせる。読み易い文章ではなかったので(悪文ということではない)、読み終えるのに時間がかかった。エンタメというより哲学的。くたびれた。
2015/06/25
そのぼん
屍者を甦らせることができる学術がある世界の物語でした。そこはかとない不気味さもあり、ややこしげな魔術もどきの科学の描写もあり、なんとも形容し難い居心地の悪さが最後まで付きまといました。
2012/09/23
ガクガク
単純に「屍者と生者の闘い」の話と踏んでいたら、どんどん難解になって「意識」とか「言葉」とか、はたまた屍者化した生者とか、人の意識を乗っ取る「X」とか、ますます難解になり、もはやお手上げ状態。途中「屍者の3原則」が「ロボット3原則」と同じという辺りまでは楽しめたのだが…。登場人物も創作上の有名人物が総出演という感じで、予備知識が十分ならばより楽しめる設定。ちょうど『種の起源』を今読書中なので、チャールズ・ダーウィンが出てきた時には思わず苦笑。本人も墓下で苦笑しているに違いない。円城塔に再挑戦できるかどうか?
2014/08/23
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