福島モノローグ
福島モノローグ / 感想・レビュー
ちゃちゃ
耳を傾けて聴く。それは、あなたの思いを受け止めたい、その哀しみや苦しみに少しでも寄り添いたいという姿勢の表れだ。本作は、東日本大震災から10年経った昨年、被災された人々の声をモノローグという手法でまとめた作品。誰かが書き留めなければ、歳月とともに埋もれてしまう人々の思いを、著者が聞き手に徹して丁寧に掬い上げた貴重な記録。ある日突然、故郷を未来を奪われた人々。負の遺産だけではなくプラスの遺産として何かを残そうと模索する彼らの姿に、支え合って生きる人間の底力と希望を見たように思う。私も心して耳を傾け続けたい。
2022/03/03
とよぽん
未曾有の大震災から10年、いとうせいこうさんは『福島モノローグ』を世に送り出した。『想像ラジオ』の語り手から今度は聞き手に回って。語ってくれた福島の人々の言葉は、「あの日」から続く不安や恐怖、怒り、絶望、悲しみ、苦悩ばかりではなかった。幼い子どもの幸せのために前を向いて立ち上がる人、次の世代に残していける物事(農業、芸術など)に取り組む人、6箇所も転々と移住を余儀なくされて復興住宅(終の住処とご本人)に落ち着いた人、みなさんそれぞれのお話がとても重い。東電や政府や風評などがもたらす数々の不条理にも屈せず。
2021/05/25
しゃが
いとうせいこうさんは「小説『想像ラジオ』では勝手にしゃべってしまった。今度は聞く番だ」と。殺処分の牛を保護した人、情報がないまま放射性プルームが流れる外に出て、子どもたちを連れて給水に行ったことを後悔する母親、津波にあった父との特異な別れをした女性、避難してきたところを終の棲家と言い、趣味の短歌は愚痴になるからもう詠わないという高齢者など。やりきれなさに胸が詰まるが、避難所でラジオ放送を作った人、子どもたちとの活動を担う日本舞踊家など過酷な状況下でもポジティブに生きようとする人たちの姿があった。
2021/04/30
アナーキー靴下
自国観とは故郷の投影に近いものだと思う。私の故郷は埼玉なので日本イコール埼玉。暮らす分には不満はないが、これといって誇れるものはなく、テレビで知る程度ではまわりの地域がどこも素敵に見えた。この本には、福島の人たちの言葉、震災、今、そして未来への想いが詰まっている。悲惨な体験や大切なものを失った悲しみを想像すること以上に、それを越えて今を生きる人を想像することは難しい。同じ日本に暮らしながらきっと違う日本。国は自国観の集合だ。福島の人が語り続けてくれることで福島を知り、日本のイメージは日本の形を維持できる。
2021/03/17
さぜん
震災を経験した8人の女性のモノローグ。だがその語りの前に作者の傾聴がある。傾聴がなければ埋もれてしまった彼女達の人生。それもほんの一部だ。理不尽な現実が目の前にあっても前を向いて生きていかねばならない。人間の強さ、たくましさを知ると同時に弱さと辛さも伝わってくる。どんな形でも知らなければいけないと改めて思った。そして忘れてはいけないということも。
2022/06/06
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