ディフェンス
ディフェンス / 感想・レビュー
syaori
「かわいそうな、かわいそうなルージン」。不潔で偏屈で、愛した叔母や妻には優しくされても愛されず、友人もいない、よるべない瞳に一途な愛情を宿す孤独な青年。チェスの魔法に魅惑されるチェスプレイヤー。これは不器用で繊細な彼の破滅の物語なのだと思うのですが、それにも関わらずこの物語に確かに「温かさ」を感じるのは、作者が彼に自分の家庭教師ばかりでなくそれに付随する輝くもの、思い出すだけで胸がきゅっとなるような幸福な幼年時代も与えたからではないかと思います。たとえ彼がその遠い記憶に「追いつけなかった」のだとしても。
2019/03/01
chanvesa
ルージン幼少期の両親や学校の連中との関係は不幸だったろう。チェスとの出会いは一瞬彼に喜びを与えたのだろう。チェスは彼にとって思考の方法・手段になったかもしれないが、そのために彼の人生は絡み取られていき、しかもヴァレンチノフのような香具師みたいなやつに手段にされていく。ナボコフはやはり意地が悪い。そもそもルージン夫人に関する描写もひどい。「顔の角度によっては、一瞬申し分ない美貌に見えないわけでもなく、本物の美人にいま一歩でなりそこねたという顔に見えることもある。(86頁)」彼女の何に惹かれたのかわからない。
2016/07/03
里愛乍
チェスについてはルールですらろくに知らない。知っていればもっと深く読み込めたかもしれないと、そう思うくらい一つの出来事や情景の表現の捻りが凄い面白い。コブシが効いているとでもいいますか、ぐるんぐるんしていて圧倒される。ほぼ自己陶酔にも見えるルージンを想う妻が名前すら出てこないのが興味深い。チェスの描写がこんなにも凝っているのに対して、彼女への想いはこの程度だということか。
2015/04/18
長谷川透
主人公のルージンはチェスの世界に嵌まり込み神童と称され、成長した後にはその世界での名声を得て地位を確立する。ルージンの父は作家であり、子をモデルにした幾つかの小説を書いていたようだ。ひょっとすると、ルージンのチェスへの埋没は、自身を父の小説世界から脱却させるための行為であり儀式だったのではないか。そして、チェス盤の白と黒の配列の世界に自らの世界を再創造したのではないか。テクストと棋譜、世界を創造しようという手段は違えども、二つは結局のところイリュージョンだ。(続く)
2012/10/21
ネムル
またしても厄介な本を読んでしまった……。主人公のルージンが親から父姓で呼ばれるようになる書き出しが印象深いが、それによって幻影(イリュージョン)たるルージンのキャラが引き立っている。ルージンは孤高のチェス・プレイヤーであり、ナボコフに操られる孤独な駒でもある。チェス理論による抽象的思考と、そこに収まりきらない思考とに不条理と奇妙な魅力を感じた。
2009/04/19
感想・レビューをもっと見る