さすらう者たち
さすらう者たち / 感想・レビュー
metoo
北京出身のリーは渡米し英語で執筆する。テレビ、ネット、新聞では知れない中国を生活を人々を体感できる。しかしリーはreal CHINAを描いている訳ではなくあくまでreal human natureを描いているという。本書は、一人の若い女性が文化大革命が終わった2年後に政治犯として処刑された実際の事件をもとにしている。変革・激動する中国で処刑された娘の両親、近所の人々、娘の名誉回復のため運動する人々、それを暴動だと逮捕する人々、される人々、それらさすらう者たちへ著者の眼差しは鋭く温かい。
2016/07/29
おさむ
「歴史は拡声器から聞こえてくるようなものじゃない。革命の力ではなく、人々の欲望に動かされてきた」。文化大革命が中国にもたらした暗部を描く力作でした。リーは子どもの頃、家では家族以外は誰も信用してはいけないと、学校では両親ではなく教師の言うことを信じろと教えられた。中国の歪みがここにあります。本年ベスト10に入る凄い一冊でした。
2016/01/17
アマニョッキ
文化大革命終結後の中国地方都市で、反革命分子として処刑された女性の実話をベースにした作品。だがこれは政治や歴史の記録ではなく、その時代を生きた市井の人々のお話。こんなにもつらくて痛々しくてでもふと穏やかな笑みのでるような群像劇がこれまであっただろうか。「彼らは歴史の中を生きている自覚はない」という後書きに尽きる。人間自体が神様のバグだと常々思っているが、それでもわたしは生きていかねばならない。毎日快適に眠れること。空腹にうちのめされる日々などないこと。となりに愛する人がいてくれること。
2022/06/24
yumiha
「反革命分子、顧珊(グーシャン)は、全ての政治的権利を剥奪のうえ、死刑を宣告」という隷書体の告知が貼りだされた渾江の町から小説は始まる。文化大革命が終結した2年後だというのに、文革を引きずったままの町には、ずっと不穏な雰囲気が流れている。むごい現実に押しつぶされそうになりながらであろうとも、何を自分の指針とすればいいのか迷いながら人々は生きなければならない。そんな隙間から、作者イーユン・リーの醒めた視線が見え隠れする。「革命なんぞ、ある人種が別の人種を生きたまま食らう計画的手段」というドキッとする一文。
2020/09/20
algon
「千年の祈り」後の長編という事で手にしたがこの本も途轍もなく重かった。群像劇と言っていいと思うが強大な一党独裁に対して疑問を書いた女性が処刑される。その事案の周辺にうごめく人たちの物語。凱、八十、妮妮、華夫妻、顧夫妻等の登場人物はどうしようもなく不幸せ。人民のための巨大な党が保身のため如何に理不尽な圧殺行為に手を染めるか、この物語は中国社会の底辺で生活する無力な人々を通じて静かに告発する物語(と受け止めたい)。出版後ウイグル自治区、香港問題が新たに発出しているが強権によって圧殺という手法は変わらず。嗚呼。
2021/08/14
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