地図集
地図集 / 感想・レビュー
きゅー
まじめな学術論文のように見えて、実は嘘八百が書かれている本作だが、香港の地理歴史に詳しくない私にとっては難解だった。細かく見れば、夏と冬で名前を変える都市、入口もなく出口もない広場、過去へ遡ることのできる列車などその発想を愉しく感じられるが、通して読むと意味が頭に入ってこない。ふと感じたのは、そうした違和感、難解さも董啓章が意図したものだろうか、ということ。ミクロな部分で精緻な内容を、マクロな部分で曖昧模糊としたイメージを読者へと提示することで、読者の惑乱をあえて招いていると思ったのは勘違いだろうか。
2012/08/21
ふくろう
作家は「地図は小説である」と言い切る。何をばかなと思うかもしれないが、「地図集」はまさにこの言葉そのままの小説だ。香港に実在する地名を持ち出し、作家はその由来や歴史を語ってみせるが、その中身がじつにうさんくさい。銀を流しこめば砂糖が出てくる工場があった「糖街」、植える作物を半年ごとに変えるたび通りの名も変わる「通菜街と西洋菜街」、出口がないトリックアートのような街「公衆四方街」などのエピソードが見どころ。この本に通底する意思は「懐かしき場所への追憶」である。
2012/02/29
多聞
表題作は香港版『見えない都市』ともいえる作品だろうか。考古学者が古地図や古文書から往時の香港の「再現」を試みる形式を採っているが、記述は虚実入り交じっており、読者を時折ニヤリと笑わせながらも幻想の「香港」へと誘う。著者の遊び心と香港への思いが伝わってきたような気がした。
2013/03/28
EnJoeToh
素晴らしかった。
2012/03/16
すけきよ
短篇集だけど、表題作がメイン。香港の地図案内なんだけど、そこに書いてある内容はなんとも奇妙。しかも、真実(一般的な)を交えているからどこまで嘘か見分けがつかず、しかし、その筆致はあくまで真面目くさっているため、かえって胡散臭さが増している。地図という抽象化されたものを、表意文字である漢字、英語名を音訳した漢字から再解釈して、まことしやかな、しかし、完全に誤読された世界を作り出している。その錯誤され、小説化した地理を楽しむ小説なんだけど、実際の香港を知らない者にとっては、出鱈目と断言できないもどかしさ。
2012/02/29
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