苦悩
苦悩 / 感想・レビュー
こばまり
観念的なお話かと読み進めれば、突如生々しい肉体が差し出され、ハッと息を飲む程の衝撃を受けた。人が人を壊してしまうホロコーストの惨さに改めて戦慄。加えて猛女を包容する度量を持った男たちの深い愛に賛嘆。マルグリットが美女であるとしても。
2019/03/13
ちえ
表題作の「苦悩」と次の「ムッシュウX 通称ピエール・ラビエ」を読了したところであまりにも重くて一度中断することにした。ドイツ軍にとらわれた夫を待ち続ける一日一日、その気持ちを弄ぶようなムッシュウX。想像することも出来ない(簡単にできると言えるものではない)多くの妻たちがデュラスと同じ思いをしていたという事実。読めるときにまた読み、言葉にできるようになった時に書こうとおもう。
2020/05/24
三柴ゆよし
表題作「苦悩」は、待つこと、それも生死の定かでない人をただひたすら待つことに専心した宙吊りの内省が、後半ではいきなり外的な観察に比重を移す特異なエクリチュール。真綿で首を締められるような息苦しさが横溢しているが、デュラスの筆致は、こう言ってよければきわめて文学的であり、逼迫した事態の渦中にありながら、明らかに彼女は形式を内容と同等か、あるいはそれ以上の位置に置こうとしているように思われる。そもそもこの文章の成り立ち自体が、あまりにも文学している、もとい、この人はなにを書いても文学になってしまうのだろう。
2020/09/21
しんすけ
マルグリットは夫ロベールの帰還を待っている。ロベールはナチスの強制収容所に囚われているはずだ。ドイツの敗色は明らかになったが帰還する気配がない。 友人のディオニスが心配して調べてくれている。ディオニスの優しさにマグリットは惹かれていった。 やがてロベールは帰還するが、廃人のような姿だった。そのロベールにマグリットは、ディオニスの子供を産みたいという。 ロベールに対する無残な仕打ちだ。だが廃人のロベールに、何の感慨が浮かんだだろうか。
2022/10/01
ブラックジャケット
著者が書いた記憶のない戦時中の日記が発見されるミステリアスな幕開け。あまりに苦しい事柄なので、記憶の外側へ押し出してしまったのか、レジスタンス活動は死の恐怖と直結していた。夫はゲシュタポに逮捕され、強制収容所へ。戦況は大詰めを迎え、解放される収容所もあり、夫は見るも無惨な姿で帰ってきた。死を覚悟したが、奇跡的に回復の道をたどった。しかし夫の回復は新たな衝撃に身も心も砕かれる。愛人の子供を産みたい。究極の選択が突きつけられる。他の短編も苦しみに満ちた作品だ。対独協力者たちが歴史のギアチェンジに翻弄される。
2020/02/02
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