五月 その他の短篇
五月 その他の短篇 / 感想・レビュー
buchipanda3
四季四部作で見られた知的で魔法のような自在な文章をこちらでも味わえた。やはり好みの文体。一筋縄ではいかない人生や社会をやや皮肉めいた目線で見つめながらも、その中で藻掻く人たちの繊細で不器用な心に彼女らしい表現で寄り添う感じが良い。狂おしい恋慕が描かれる表題作。木に恋した"わたし"。"わたし"と同棲する"私"は戸惑う。でも木も相手も誰の所有物ではない。ただ寄り添いたい気持ちこそなのだ。人生を巡る古典本の物語、まさに普遍的。自分の存在を自ら思う三人の天国。家への道のりと本の思い出の郷愁。もっと著者を読みたい。
2023/05/11
KAZOO
四季に関する長編で有名な作家のようですが私は初めてでとっつきやすい短編を読んでみました。訳者は「掃除婦のための手引き書」を訳された岸本佐知子さんなので読みやすい感じがありました。季節に対応した12の短編で、それぞれがかなり特徴があります。「生きるということ」「5月」などは現代の幻想小説といえるのでしょう。私は原書で読んでみたくなりました。
2024/03/10
どんぐり
アリ・スミスの6冊目。表題作を含めて1月~12月までのひと月を配した全12篇。とはいえ、季節を意識して読むものでもなかった。ストーリーは「えー、なんでこんな話になるんだ」と視点が一転していく奇妙な仕掛けがみられる。アメリカ文学の古典『グレート・ギャッツビー』の本を集める〈普遍的な物語〉。ワタシ、木ニ恋シテシマッタ、ドウショウモナカッタ〈五月〉。夫の恋人との二重生活を送る私の〈信じてほしい〉など。特に〈信じてほしい〉が一番面白かったけど、それ以外は、あまり響く話はなかったな。
2024/07/03
たま
ご高名に惹かれて『冬』を読み始め、すぐにワケ分からなくなって脱落したアリ・スミスさん。短編なら読みやすいかもとこの本を手に取った。12篇の短編で200頁、一つ一つが短く読みやすく、企みと言うか企てと言うかがくっきり解る。ストーリー、プロット、視点、語り、等物語の構成要素と枠そのものに揺さぶりをかける。筒井康隆の昔の小説を連想するが、文章が柔らかく破壊的ではない。楽しいと言う感想を多くお見かけしたが、私は考え過ぎてあまり楽しくはなかった。「天国」が印象に残ったが、これが最も普通の小説に近いからかも知れない。
2023/06/29
藤月はな(灯れ松明の火)
主に二人称で語られ、語りの慣れなさに煙に巻かれそうになるが身近にありそうな短編集。焦点の深掘りかと思いきや、物語の入れ子細工的な構成で魅せる「普遍的な物語」。しかし、個人的に「物質性の存在と儚さ」を表現する芸術の為とはいえ、本を蒐めて舟にするという展開には納得し難いものがある。そして接客業に勤める人は必ず、厄介な「お客様」に出会う。「ゴシック」はまさにそれ。オチがあるある過ぎて笑うしかない。「生きるということ」は死神と出逢ってから起こる混乱を描く。携帯電話が通じなくなった途端に起きる心理的心許なさは現在的
2023/05/28
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