ロスト・シング
ロスト・シング / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ショーン・タンのデビュー作であるらしい。ここには言葉はあるのだけれど、語っているのは圧倒的に絵。絵である限りはそうなのかも知れないが、そこが町中の雑踏や工場であっても奇妙な静けさが支配する。時にキリコを思わせるものやミロを想起させる絵も。直接引用されているのはエドワード・ホッパーの絵。また、街の建物の無機質さは全体主義国家を連想させないでもない。各ページに漂う不安感はシュールレアリスムのそれに近接するか。なんとも奇妙な味わいの絵本(グラフィック・ノヴェル?)だ。
2020/06/02
のっち♬
海辺で出会った赤くて図体の大きい生き物の居場所を街で探すぼく。絵本作家としての本格デビュー作となる本作はストレンジャーとの交流、帰属対象の追求、人間社会の無関心といった創作における主要テーマが既に顕現している。文明社会の背景の緻密さや、シュールで無表情なキャラクターのいきいきとした振る舞いに旺盛な表現意欲が窺われるし、父親の理系教科書を活用したというセピアコラージュもメッセージ性と相まってノスタルジックな感興を惹起させる。「よくわからない」なりに奔走できる余裕を忘れた心、それこそが現代社会が抱えた迷子だ。
2022/06/11
馨
なんか相当色々なことを考えさせられました。私も今までの人生で、忘れてしまっているかもしれない記憶の中にこういう経験あったのではないだろうか?なかったことにできることなんて何一つないのに自分の都合の良いように終わらせてきたことはないだろうか?1つ1つの経験に、出会いにもっと深く真剣に向き合いたいと思いました。
2017/05/04
kanegon69@凍結中
この人の絵本は本当に面白い!毎度、ショーンのメッセージが込められているが、そういうこと抜きにしても、ただただ不思議空間の不思議な生き物を眺めているだけでも楽しい。そこに意味なんていらないと思えるぐらい、なんだか不思議でワクワクするのだ。この絵本で出てくる赤くて巨大な迷子。なんだか愛おしく感じてしまう。最後まで読んでもう一度最初に戻ると、浜辺で一人佇む赤色の迷子がたまらない!意味なんてなくても存在するものを見つめる少年の心。毎日の忙しさでそういうものを見つける余裕さえ失っている世知辛い世の中を皮肉っている。
2020/01/26
KAZOO
やはりショーン・タンの絵本というのはいくつか読んでいるのですが、いつも楽しくなります。若干不気味さもあったりするのですが、なんかこっけいさも感じたりします。特に色調が茶系統で落ち着くような気がします。また日本語もうまく訳されていて絵になじんでいます。
2016/04/16
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