少年アリス (河出文庫 な 7-1 BUNGEI Collection)
ジャンル
少年アリス (河出文庫 な 7-1 BUNGEI Collection) / 感想・レビュー
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
忍び込んだ夜の学校は、知っているそれとは少し違う世界。理科室で行なわれる授業を受ける生徒たちの背には羽があった。 むせ返る沈丁花、銀木犀と夏薔薇は月に輝く。少年たちは月夜に星を縫いつける為にそらを飛ぶ。「美しさの頂点である朝突然二つに裂けた綿色の切り口を目にするような時、目を背けたくなるのは何故なのか」昨日と地続きのようでいて、今日はもう完璧に変わってしまった。夏は終わってしまう。曹達水はもう飲めない。終わりの予感はいつだって少しかなしい。
2019/06/02
ダリヤ
長野まゆみさんの文章にはじめてふれたときの感動から、もうだいぶたってしまった。ひさしぶりによみかえして、あの頃と変わらない世界がちゃんとおさめられていた。まるで、まっくらな劇場でかすかな光の中でくりひろげられる劇を息をひそめてみているような心地になる。ひとつひとつのことばをながめるだけでうつくしいとかんじるし、読めばまたうつくしい想像の世界へとびたてる。今夜もたくさんの十字型の群れが夜空に真新しい星や月を縫いつけている。
2015/02/23
ちょろこ
朱色のノウゼンカズラ、橙色のカラスウリのランプと共に迷い込む月夜のファンタジー、の一冊。月明かりの晩、夜の理科室へといざなわれる少年たち。日常と別世界の狭間をたゆたうような感覚はもちろんのこと、静謐な言葉で綴られていく少年たちの冒険心、成長にも大人の心を心地よくくすぐられる物語だった。騒々しさとは無縁の長野さんの紡ぐ世界はしばし現実を忘れられるのがたまらない。過ぎ行く夏の夜、窓辺で月光を浴びせ飾りたくなる、そんな作品。
2018/09/05
雪うさぎ
長野さんが紡ぐ花の名や色の名を声に出して読んでみると、その言葉の響きが秒針となって、ゆっくりと夜のときを刻んでいく。月明かりに照らされた少年の影は、少し透明で弱々しい。少年は鳥の卵から生まれたのだろうか。孤独な少年の思いが、殻を破れず死んでいった鳥たちの思いと重なって、寂しい気持ちになる。もしかすると、少年の姿こそが幻で、本当はまだ殻の中にいて、空を飛ぶことを夢見ている、眠ったままの鳥なのかもしれない。夏と秋とがすれ違う夜、静かな世界に浸ることができた。心の本棚にそっとしまっておきたい。
2015/09/21
kana
「少女病」に続いて「少年アリス」を読んでみた。何の関係もないけれども。というわけでお久しぶりの長野まゆみさんです。今読んでも、美しい言葉を巧みに操り、忘れかけていたジュブナイルな心を思い出させてくれる印象深い作品でした。アリスというよりは長野さんが「学校の怪談」をかくとこうなるんだなという感じ。蛍のことを《それは宙に浮く微小な光る石の群で、夏至とともに現れ、秋には消えてしまう夜行性の浮遊物である。》と表現するそのセンス!ダメと言われてもそっと足を踏み入れたくなる、夏の魔法に幻惑されられます。
2013/08/22
感想・レビューをもっと見る