野ばら (河出文庫 な 7-2 BUNGEI Collection)
野ばら (河出文庫 な 7-2 BUNGEI Collection) / 感想・レビュー
夢追人009
長野まゆみさんが描く真夏の夜の幻想ファンタジー中編小説。月彦と謎の二少年、銀色と黒蜜糖の物語は去年に読んだ「夏至祭」に続いて2冊目となりますので大きなサプライズはありませんでしたが再びファンタスティックな幻想物語を楽しんで十分に堪能しましたね。長野さんの作品を読む時は理屈がどうだ結末はどうなるのかとか頭でっかちな事は一切気にしないで自由奔放に描かれる色彩豊かなシーンの数々を心の中に思い描いて素直に楽しむ読み方がいいでしょう。白い野ばら咲き乱れる庭に時々遊びに来る猫ちゃん達と共に戯れの時を過ごしたいですね。
2020/02/13
しいたけ
久しぶりに、母の古くて黒い足踏みミシンを思い出した。天板にひょっこりと持ち上げられたときの期待。カタカタと踏み、クルクルと回る繋がり。下に潜り込んだときの高揚感。いつしかノスタルジックな風景になっていた。『野ばら』はまさしくそんな本。
2017/06/21
おたけஐ೨💕🥒🍅レビューはボチボチと…
82/100点 『夏至祭』と同じ登場人物の物語でこれだけ印象が違うとは驚きです。夜のしじまを震わす微かな音や、月の光が床に落とす玻璃片の煌めきなど幻想的な描写の数々。野ばら・芍薬の白と対極をなすような柘榴の紅玉色、色のコントラストが印象的でした。夢と現の狭間で揺蕩う月彦と妖しげな黒蜜糖。夢と現実の境が分からない不思議な怖さの世界観を持った物語でした。ただ『夏至祭』では強い個性を発揮していた銀色の存在感が薄い点が残念です。やっぱり自分はノスタルジックな味付けのある『夏至祭』の方が断然好みですね。
2018/07/14
ちょろこ
真夏の夜の覚めない夢、の一冊。かたたた、かたたた…ミシンの音は真夏の夜の覚めない夢へのいざない。幻想的な雰囲気もつかの間、うっすら寒いヴェールにずっと包まれ、見え隠れする紅玉色の柘榴に惑わされるような終始冷んやりさせられる異世界。なんとなく冒険心の象徴のようだった紅玉色がこちらの世界では怖さの象徴だったのが印象的だった。夢か現かのようなこの世界、怖さで本を閉じたくなりつつもあり、また何度も新たな冷たさ怖さ、紅玉色を探したくもなる、くせになりそうな作品。
2018/07/05
(C17H26O4)
夢から目覚めては眠り、目覚めては眠り。繰り返す毎に夢と現が混ざり合う。ミシンの音がかたたたと聞こえ、石榴の果実は紅玉の玻璃玉のようで、野ばらの花びらははらはらと降る。学校からの下り坂、いつの間にくぐり抜けた野ばらの垣。ここはどこ。月彦の家の庭だろうか、学校だろうか。学校?どこの?バラ科の鉄やザクロ科の鉄。石榴の紅玉(るびい)は錆びた鉄の味。植物は甘やかに妖しく香り、樹々は鬱蒼と繁る。黒蜜糖と銀色のいる静かな世界。野ばらは尽きることなく降り続け、月彦の姿は掻き消された。今ここに野ばらの微かな香を感じる気が。
2018/10/30
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