カンパネルラ (河出文庫 な 7-6 BUNGEI Collection)
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カンパネルラ (河出文庫 な 7-6 BUNGEI Collection) / 感想・レビュー
夢追人009
長野まゆみさんが宮沢賢治作品「銀河鉄道の夜」に触発されて書かれた中編幻想ファンタジー小説ですね。病弱な為に祖父の家で暮らす兄・夏織(かおる)の元へ夏の数日だけ訪れる弟の柊一(しゅういち)は何故かよそよそしく不愛想な兄の行動を追う内に謎めいた秘密の隠れ処を見つけるのだった。本書は最後まで読んでも完全にはストーリーが完結せず謎の少年カンパネルラの正体は判然としません。彼は「銀河鉄道の夜」に登場する少年と同一人物なのか?私は宮沢賢治さんの童話作品を今迄真剣に読んで来なかったのでこれを機に読もうと決意しましたね。
2020/02/12
masa@レビューお休み中
弟の柊一は、兄の夏織のもとに会いに行く。夏織は体が弱く、田舎の祖父の家で療養をしているため、柊一は毎年夏になると会いに行くのだ。大好きな兄のためにお土産をもって行くのだが、兄とはうまく言葉を交わすことができない。冷たくあしらわれても、気になる夏織の姿を追っているうちに、柊一はあることに気づくのだが…。物語は単純なのに、他のことは、すべてのネジがはずれたかのように複雑である。現実と幻想の境目、兄と弟の関係性、祖父の存在感のなさのどれもが曖昧としている。まるで霧の中にいるような不安定な心地なのである。
2015/06/29
新地学@児童書病発動中
切なさが胸を打つ幻想文学の佳作。弟が病弱の兄の秘密を知ろうとして、自分も向こう側の世界へ足を踏み入れる。森の中にある金木犀が咲く隠れ処の描写が美しい。現実の場所というより、あらゆる人が心の中に秘めている聖域のようなところだ。題から分かるように、この小説は『銀河鉄道の夜』と深いつながりがある。結末はいろいろな解釈ができると思う。兄は救われたのだろうか?カンバネルラが彼を救った、と私は信じたい。
2018/08/31
しいたけ
微かに流れる水の音。揺れる樹々の葉から溢れる陽射し。土を踏む足の先から立ち昇る温もり。対して熱を奪う兄の眼差し。澄んだ川の飛沫の向こうを見るような、清らかな世界に浸る。銀木犀が出てきたところで、胸が飛び跳ねる。私の机に積まれた本、『銀木犀』。雨の中ボートを漕いでけば、その本に辿り着くのだろうか。
2017/06/23
(C17H26O4)
『銀河鉄道の夜』のイメージが青なら、こちらは緑。様々な緑色が辺りを美しくももの哀しく包み込むようだった。夏織兄さんと彼を近くて遠い存在として憧れる柊一との関係は、カムパネルラとジョバンニとの関係であるだろうか。始めから兄弟二人の別れを予感しないではいられない、切なくて幻想的な物語であった。 ところで川の奥、夏織の秘密の隠れ処に現れた銀木犀の木は、ずいぶん前に読んだ『銀木犀』にそのまま繋がりそうだ。また別の読み方ができるかもしれない。
2022/03/18
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