狐のだんぶくろ: わたしの少年時代 (河出文庫 し 1-26 澁澤龍彦コレクション)
狐のだんぶくろ: わたしの少年時代 (河出文庫 し 1-26 澁澤龍彦コレクション) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
本書は、いつもの澁澤節とは趣きを大いに異にする。すなわち、古今東西の文献を縦横無尽に披瀝する博覧強記といったイメージがここでは影を潜めているからだ。表題作は澁澤が幼少時に愛唱した童謡の一節なのだが、ことほど左様に全篇が彼の想い出に彩られているのである。澁澤と同世代で、しかも東京に生まれ育っていれば、ことに強い共感を得られるだろう。また、そうでなくても澁澤の書物の愛好家なら、彼の文体を通じて十分にこのエッセイを楽しめるだろう。ただ、澁澤にあまり馴染みがない読者には…この場合は保証の限りではない。
2015/01/24
新地学@児童書病発動中
澁澤龍彦氏の少年時代をテーマにしたエッセイ集。人間の暗黒面に切り込んでいくような他のエッセイとは異なり、この本はユーモラスで郷愁を帯びている。昭和の初めの東京山の手の生活が生き生きと描かれていて、読んでいると心が和んだ。自分の子供の頃のことを思い出して、これほど鮮やかに書ける筆力に脱帽した。澁澤氏にとって子供時代はそれほど大切なものだったのだろう。エッセイの中では表題作が一番面白かった。「狐のだんぶくろ」とは一体何かと思いながら読むと、不思議な世界に迷い込んでしまう。
2018/06/29
(C17H26O4)
空想癖があったとかちょっと影があったとか、少し癖のある子供だったのかなぁと、まず勝手な想像をしましたが、好奇心旺盛で観察眼のある活発な子供だったのですね。氏の様々な思い出から(凄い記憶力が伺えます)、昭和の空気感が伝わってきて楽しく読みました。そして思い出したことがいくつか。わたしの祖母も襖のことを「唐紙」、お新香のことを「おこうこ」と言っていた。「セトモノ」も懐かしい言葉。アドバルーンはわたし自身、かなり小さい頃見た覚えあり。「週刊〇〇は今日発売でーす」なんて空から放送していたのも思い出しました。
2018/07/16
misui
昭和初期に少年期を過ごした著者の徒然な回想録。終戦とともに青年期に入ったというくらいで、感性の揺籃期であったこの時期に、後の才人がどのような環境にいたのかを覗き見ることができる。澁澤の看板を抜きにしても、中流から上流寄りの東京在の一少年の生活が垣間見れて興味深い。さすがに筆が巧くてするすると読めるのもよかった。
2014/09/10
ぐうぐう
澁澤龍彦が言う「黄金時代」としての子供の頃の思い出を、ユーモアたっぷりに綴った『狐のだんぶくろ』。文学や美術といった題材を決められて語る評論とは違い、自身の子供時代を自由に振り返る作業は、澁澤にとってはとても楽しく嬉しい作業だったに違いない。記憶と言えば変えようのない硬さがあるが、思い出と言い換えればそこにはイマジネーションが備わる。その思い出というイマジネーションの中を、活き活きと龍彦少年が駆けて行く、これは素敵なエッセイだ。
2009/05/27
感想・レビューをもっと見る