私の話 (河出文庫)
私の話 (河出文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
1992年、1997年、2002年と5年ごとの区切りで書かれた自伝的小説。もっとも、小説とはいうものの、自身の過去の出来事やその都度の思いを随想風に綴ったものともいえる。中では、1997年がもっとも小説としての趣きを持っている。彼女の実人生においては、様々な意味で煩悶があった時期なのだろう。酒と賭博に耽溺しながら、その一方ではそうした自分を否定するといった日常なのだが、むしろそうすることを創作の糧にしていた節もある。それはまるで太宰の姿を見るようなのだが。最終章は2002年、自ら死を選ぶまで後2年だった。
2018/02/21
新地学@児童書病発動中
鷺沢萠の自伝的な小説。3つの短編が結びついて、この作家の人生が鮮やかに浮かび上がってくる。若い時にデビューしたので、漠然と華やかな人生を送ったと思い込んでいたが、それは間違いだった。華やかさはあるのだが、泣き笑いの人生と言える。父の事業の失敗、母の死、離婚など次々と厄介事が起こる。それでも大丈夫と言い切れるところが彼女の強さだ。最後の「私の話2002」で在日韓国人1世のおばあさんたちの生き様から、著者が勇気をもらうところが、本当に良かった。
2017/09/07
ann
随分前に息子が好んで読んでいた作家。たまたま図書室で目に止まり選んだ一冊。なんて清廉で真面目で愚直な人なんだろう。彼女が旅立ったのはニュースで知ってはいたけれど、短くても濃い人生だったはず。巻末の酒井順子氏の「親友」へのレクイエムが静かに沁み入る。そしてこの作家を早い時期に読みこなしていた我が息子に敬意を。
2022/08/27
太田青磁
「弱者には同情ではなく愛情を注ぐこと。」「いるんだったら役に立て」そんなメッセージを遺してくれためめさんが「ひとはこうやって、死んでいったひとのことを、ゆっくりと、穏やかに忘れていく。それでいいのだ、という気がする。何かの拍子にときどき思い出す程度が、ちょうどいいのではないか。そんなふうに思う。」なんてことを亡き祖母の墓前で感じていたということに、なんだか少しだけ穏やかな気持ちになりました。酒井順子さんの解説にも慰められながら、今年も「いいこと」だけを信じて生きていこうと思います。
2017/04/11
メタボン
☆☆☆☆☆ 重い内容だけれども、作者の軽快な書きっぷりで、読まされてしまう。私の話1992では、作者は常に憤っており、ついついチェッと舌打ちしてしまう。私の話1997では、博打に注ぎ込み食料を買う金も手持ちがなかったことにより、「どんど焼き」(チヂミのようなもの)を作るしかなかったことで、自らのアイデンティティに思いを寄せる。私の話2002では、作家として祖母の出自を明らかにしてしまったことへの自責の念にかられ、いたたまれなくなる。読者の心に深く刺さる作品である。本当に急逝が悼まれる作家。
2023/08/17
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