窓の灯 (河出文庫 あ 17-1)
窓の灯 (河出文庫 あ 17-1) / 感想・レビュー
ろくせい@やまもとかねよし
タイトル編に加え書き下ろし短編の2編が収録。どちらも粛々と時間が流れる。主人公は、他人の行動や発言を気になって仕方がない。一方、彼らは自分の行動や発言を肯定できず、その否定感に自己嫌悪する。主題を探しながら終えた読書だった。前編の主人公は大学中退の女性で、相手するのは下宿先の中年女主人。後編は男性会社員を主人公に、相手するのは同じ会社でパリに憧れるパート清掃員。主人公は対比する相手の心境を気にかけたり、近づこうとするがことごとく裏切られる印象。。最後まで掴みきれない主題。自己と他者の境界探しだったのか。
2020/07/07
かみぶくろ
静かな筆遣いに柔らかい感性を乗せた、ある種の「雰囲気」を持った作品。自分には作者の世界の感じ方を感覚ベースで捉えることは難しかった。無粋な意味付けベースで語るとすれば、女として成熟に向けた中間点にいる主人公の、擬似姉に対する好意と嫌悪の二元論で表現できない感情のグラデーションの表現が上手いっていうのと、他人の家の窓という幾分象徴的なものを通じて人間(もっと漠とした何か?)を覗き見ようとし、その届かない距離をまざまざと感じつつ、最後の展開で双方向的な可能性が束の間滲むっていう展開が秀逸だと思った。
2015/08/02
エドワード
大学を1年でやめたまりもは、毎日喫茶店で推理小説を読んで暇つぶし。ある日閉店時間まで眠ってしまい女主人ミカド姉さんに声をかけられる。「うちで働かない?」居酒屋や風俗店や安アパートが並ぶ裏通り。裏のアパートの中まで丸見えだ。ヒッチコックの「裏窓」を想い出す。まりもは大学をやめた反動か、知的なものに鳥肌が立つ。本屋や図書館へ行く気もしない。彼女の心象風景の描写に心惹かれる。男好きのミカド姉さんは大学卒。大学の時の先生も恋人の一人。加藤典洋氏の解説が秀逸だ。知性と猥雑、対極的なものが共存する、「若い人」の物語。
2023/09/11
かわちゃん
☆☆☆☆ 内省的な主人公まりもの心情を“まるで姉妹”のような不思議な関係性の中で描くこの物語は、青山さんの原点でもあり他の物語とも連なっているようにも見えました。窓から見える灯のように、他者との関係や距離感が客観的で淡くうつるこの世界観は、自分はやっぱり好きです。他の人のレビューもみると、好き嫌いが出やすいのかな。
2014/11/12
kaoriction@感想は気まぐれに
ここではないどこかにも私の生きてゆく、ゆける場所はある。青山七恵デビュー作。22歳。表現力の妙が光る。小さな世界の話なのに、宇宙的。夜の闇、窓の灯、ミカド姉さんと男達。窓の向こうを「生きる」人たち。気怠く湿った空気間なのに、妙にサラリと吹き抜ける感覚は筆致のせいだろうか。ここではないどこかで生きる人と自分。アイデンティティ。併録『ムラサキさんのパリ』もテーマは同じ。「自分からすっごおく遠く離れたところにそういうきれいな場所があって、つらくなってる自分とは無関係に今日もきれいなんだ」。ここではないどこかで。
2017/12/12
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