貝のうた (河出文庫 さ 29-1)
貝のうた (河出文庫 さ 29-1) / 感想・レビュー
meg
感動。心揺さぶられ、沢村貞子の人生の断片が愛おしい。彼女の脇役として生きると決めたという描写は力強かった。すばらしい本。
2024/06/21
mymtskd
生まれてから37才の終戦の日までの若き日の自伝である。それにしても何と聡明で清々しい人だろう。名門女子大を中退する時も、巻き込まれるように獄中生活を余儀なくさせられる時もあっさりと気負いがなく自然体、それでいて情に厚く何事にも丁寧で一生懸命なのだ。こういう姿を粋というのかも知れない。
2020/07/02
maghrib
「私の浅草」「私の献立」で見られる古風で控えめな人柄からは想像できない壮絶な半生記。男女平等に目覚め教師を目指し女子大に進むものの、教師への幻滅からプロレタリア演劇活動に参加。活動を通じて同志と愛情のない結婚することになる。特高に逮捕され、裸にされ竹刀で拷問を受けても転向せず、未決囚として収監されていたところに、逮捕は夫の供述によるものと知り、左翼活動全てに絶望する。執行猶予付き保釈後,兄の子(長門裕之)の面倒をみるうちに生への希求が生まれ映画女優を決断する。芯の強さと、身に染み込んだ強靱な倫理を感じる。
2024/06/29
Galilei
疫病、貧困、戦争、思想弾圧、地震・・・現在の世界を取り巻く悲劇よりも、厳しい苦難に耐えた明治人に逢いたくて、半読みの本書を今再び。▽祖父母や大学教授をはじめ、明治人に触れた最後の世代ですが、どなたも物事に動じず一徹なのは、本書にある、”おていちゃん”の幼い頃の躾からと思います。職人や商家など堅気の世間からは縁遠い芸人世帯にもかかわらず、女子大から左翼運動の芝居へ。本書の多くを占める左翼運動と弾圧の監獄暮らしには、先の一徹だった貞子の家庭の片鱗を感じます。でも、朝ドラ”おていちゃん”は楽しかったです。
てれまこし
転向文学の白眉ということで読んでみたが、特に興味深かったのは父親との愛憎関係であった。芝居にしか興味がなく自分や母を愛してくれない父への反発から教師を目指すが、結局女優になってしまう。革命運動への参加も、どうも親への反発と無関係でない。そして恐らく転向も(「お前の親は泣いておるぞ」は転向の殺し文句)。考えてみれば、人類の歴史は階級闘争より前に世代間闘争がある。プラトンの哲学もロシア近代文学も世代間闘争から生れた。明治維新のごときも若者の老人支配への抵抗である。社会とは親が子の尊敬を失わないかぎりのもんだ。
2018/07/13
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