ブエノスアイレス午前零時 (河出文庫 ふ 4-8)
ブエノスアイレス午前零時 (河出文庫 ふ 4-8) / 感想・レビュー
chantal(シャンタール)
福島との県境に近い新潟県のとある田舎ホテル。場違いのようなコンベンションホール。ダンスクラブの団体によるダンスパックツアーの客でもっているようなホテルだ。一晩で80㎝も積雪したある夜の物語。東京の広告代理店を辞めてUターンした男と横浜から来た盲目の老女。雪に埋もれたそのホテルのダンスホールに私も確かにブエノスアイレスを見た気がした。横浜から船に乗り、ブエノスアイレスへ飛ぶ魂。もちろんBGMはピアソラのタンゴ。アルゼンチン、行ったことないけど。中編2編、不思議な感覚の物語だった。
2020/07/19
いたろう
1998年上半期の芥川賞受賞作である表題作、他1編。この表題作は、ブエノスアイレスが舞台だと思っていたが、冬の雪国の温泉旅館が舞台だった。かつて東京の広告代理店で働いていたカザマは、挫折して故郷の町に戻り、社交ダンスができるコンベンションホールを売りにしている温泉旅館で働いている。そんなある時、彼は、神奈川から来た、盲目で認知症を患っている老女とアルゼンチン・タンゴを踊る。言ってみれば、ただそれだけの小説だが、主人公の閉塞感が、認知症の老女の中のブエノスアイレスの思い出に共鳴するラストシーンが素晴らしい。
2022/02/27
踊る猫
藤沢周は耳が良いんだなと思った。本書はハードボイルド/硬質なタッチの文章と、新潟の訛りの入った言葉やその他の口語(つまり極めてジャンクな言葉)が入り乱れる。両者が溶け合うことで、一見すると素人臭いのだが実は極めて豊穣なカオスを生み出していることに気づかされるのだ。たまたま雪が降った日に読んだからか、著者が書く雪景色、温泉卵が出来上がる現場が生々しく感じられた。頭でっかちな作家には書けないリアリティがここにはある。切迫感、追い詰められた状況にある男の姿が悲哀を伴って語られる。J文学として葬り去るには惜しい!
2019/01/27
Emperor
終盤、カザマとミツコがアルゼンチンタンゴを踊るシーンが印象的。硫黄のにおいのする無愛想な青年と盲目の老女のダンスは奇妙にうつる。しかし、古いダンスホールの片隅という小宇宙では、何もかもが治外法権のように感じる。第119回芥川賞。
2017/02/21
ナチュラ
再、再読 何度読んでも好きな本。 藤沢周平じゃない 藤沢周 みんなに覚えてもらいたい。
2017/11/30
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