消滅世界 (河出文庫 む 4-1)
消滅世界 (河出文庫 む 4-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
一応は近未来SFの体裁をとる。ここで問われるのは愛、性、生殖といった人間存在の根幹に関わる命題である。セックスに愛はほんとうに必要か。それはそうありたいと希求する人間の幻想にすぎないのか。生殖は愛とは無縁か。そもそも異性愛は大いなる自己欺瞞にすぎないのか。そうした問いが次々に投げかけられる。そして、小説の構造としては、さらにその外側に生殖をも国家が管理しようとするディストピア社会がひたひたと足元に迫っていることをも警告する。洗脳による「正しい世界」の実現である。「洗脳されてない脳なんてこの世の中に⇒
2020/09/20
starbro
村田 沙耶香、2作目です。未読の本書が文庫化されて、図書館の新刊コーナーに佇んでいたので、読みました。究極のセックスレス小説、衝撃的でした。性欲が消滅した世界では、食欲、睡眠欲等、様々な欲望が消滅して行くのでしょうか?そうなるとまさにホラーです。芥川賞受賞後、新作が出ていませんが、著者は書けなくなってしまったのでしょうか?【読メエロ部】
2018/08/16
absinthe
沙耶香様のこれまた凄い小説。ラストも衝撃。確かに現代社会はここに描かれた世界に近づこうとしつつある。読者はひとつの究極の姿を目の当たりにする。かつて神事であった子を授かるという儀式が科学の元にヴェールを暴かれ続け、人間の意識も変わり続けてきた。ディストピアでありユートピア。こういう世界が描けるのはかなりの力量。夫婦の間の清潔感の相違。虫たちと普通に共存していたかつての家屋と異なり、現代の家屋では虫はすべて害悪扱い。この歪んだ清潔は未来を良くも悪くも変えていく。
2019/08/23
ケンイチミズバ
無菌状態に慣れてしまい体のふれあいを汚いものとして敬遠する世代が主流となった時代。ひ弱で情熱のない生き方が生物としてのヒトの末期を思わせる。生物が生きる目的は遺伝子を残すこと、種の存続にある。人工授精が当たり前の世界にはセックスの喜びもそもそも男女の性別の必要すら薄れている。終始、気持ちの悪いSF世界に苛々した。現在の若者に見られる兆候をデフォルメしたものに違いない。対価のない自己犠牲を疎い自分勝手で自分にイイネしてくれる人だけに囲まれていたい若者が100%主流になった時、こんな世界が訪れるのだろうか。
2018/07/19
あきぽん
社会学者曰く、現代は「性・恋愛・結婚」の三位一体が崩れつつあるという(もっと昔は結婚とは家と家との繋がりだったので三位一体ではなかったのだが)。村田沙耶香はこのSF小説でこの三位一体を極限にまで解体してみせる。この小説に書かれている世界は有り得ない世界だが、小説世界を形作っている要素はどれも現実に起こっていることで、政治家の言っていることへの皮肉でもある。村田沙耶香を読むのは3冊目だけれど、本当に強烈な作家だ。
2018/12/10
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