黒衣の聖母 ; 山田風太郎傑作選 推理篇 (河出文庫)
黒衣の聖母 ; 山田風太郎傑作選 推理篇 (河出文庫) / 感想・レビュー
雪紫
戦争が正気を蝕み狂気を産む。死地への誘い。終戦による失望と鬱屈。戦争がなければ起こらず、また拡大することのなかった悲劇と不幸、悲恋の集合体。文体がおどろおどろしく引き込み、追い詰めていく。それ故に戦争が産み出した狂気が正気に戻った時、たまらなく感じたものの、むしろ、狂気のままでいた方がまだ当事者には幸福だったのかもしれない。個人的には印象深い「裸の島」や「魔島」を読むと特にそんな風に思えてしまう。
2022/05/29
Sam
もう一冊の作品集(「赤い蝋人形」)に強烈な印象を受けたのですかさずこちら。これも凄いです。表題作含めた10の中短編。戦争によってもたらされた様々な悲喜劇を描きつつ、エログロも満載、まさに聖と俗がぐちゃぐちゃに絡み合う。でもこれってホントに「推理編」?とも思ったがまあそんなことはどうでもよろしい。とにかく中毒性が半端なくて、読み終わったそばから禁断症状が出そう。著者の他のジャンルも追いかけてみようと思う。
2022/01/30
geshi
山風の戦争ミステリ短編集。戦争や国家や歴史といった大きな物語の中にあって、男と女・ひいては人間の物語を描くことこそ山風の戦争への復讐ともいえる。『最後の晩餐』実在の人物を用いて日本が戦争へ突入する前夜をグロテスクに描く。『魔島』戦争小説であり冒険小説であり価値観の対立と変容の話でもあるとんでもない構成力。『さようなら』戦後を舞台に大がかりな幻想を作り上げる妄執の力。『黒衣の聖母』人間の悲喜劇と男と女の愛憎を光と闇の中で見せる山風ミステリの技巧の極み。
2021/12/28
Ayah Book
『推理篇』と銘打ってあるが、どれも第二次大戦をテーマにしたミステリ・サスペンス作品だ。既読の「さようなら」や「黒衣の聖母」は、最初読んだ時はご都合的だなぁと思ったけれど、読み直してみると、男の純情がとても切ない良い作品だった。「戦艦陸奥」のいっそ潔い清々しさも素晴らしい。「最後の晩餐」、「裸の島」も好きだ。山風先生はエログロアクションを得意とする御方だが、本当に美しい純愛を書かれる。どの作品にも戦争批判が効いていて、戦争によって破滅してしまう人々に寄り添って書かれているのがまた良かった。
2022/09/27
有理数
傑作選【推理篇】と銘打たれてはいるが、ベースになった短編集が戦争小説集で、ほぼ全編が第二次世界大戦を扱っている。探偵役が登場して推理を披露する面持ちの作品は無い。しかし、人間の思想と正義がぶつかり合う中で生まれる、数奇な結末と駆け引き、仕掛けは、ミステリの精神が息づいている。再読ではあるが、表題作「黒衣の聖母」は戦争ミステリとして最高の切れ味を持つ一品。他、ペストが流行る東京を舞台にした、ものすごい結末が絶妙に切ない「さようなら」、戦争に生きるしかなかった青年たちの生き様を描いた「狂風図」が素晴らしい。
2022/01/23
感想・レビューをもっと見る