生きてしまった 太宰治×ミステリ (河出文庫)
生きてしまった 太宰治×ミステリ (河出文庫) / 感想・レビュー
パトラッシュ
太宰治は自己破滅型の作家とされる。自殺未遂を繰り返し、酒や睡眠薬の中毒になり、妻子がありながら複数の女と関係するなど生きるのが下手な男なのは間違いない。社会や法に抑圧される現代人は、多かれ少なかれ生きづらさを抱える。そのため太宰の描く「生きてしまった」人間像に惹かれ、この世に生まれてきた不幸に苦しむ姿は自分ではないかと感じてしまう。どの作品でも太宰にとって唯一最大の謎である「生まれてきたこと」の解明に苦闘する人びとが描かれるが、その謎は永遠に不明のままだ。簡単にわかってしまえば苦しむ必要などないのだから。
2024/04/28
Vakira
ミステリーとは神秘とか怪奇の意味もあるし小説の場合は推理小説の事だ。推理と言えば謎解き。この本、表紙には太宰治×ミステリーとあります。ん?どこがミステリー?でも、ちょっと視点を変えれば「生まれてすいません」この言葉が投げかける太宰治の深い謎を見つけることが出来るかも。太宰治さんは代表作の「人間失格」を読んで大ファンに。この短編の中に葉蔵とヨシ子の関係的なスピンオフ人間失格がありました。1938年に書かれた「姥捨」。「雌について」はカフェの女給、ツネ子の事でしょう。簡単に死の話を聞くと死は近くにありません。
2023/01/12
くさてる
「ミステリ」とあるけれど、もちろんいわゆる推理小説ではなく、人間心理の綾をミステリアスに描いた短篇をセレクトしたもの。苦しみと皮肉なユーモア、リーダビリティの高さはもうさすがとしか言いようがありません。「燈篭」は再読するたびに「読むんじゃなかった」と思うけど、ここに描かれた親子の情愛は美しい。たまらなく。美しいというなら「葉桜と魔笛」もまた美しい一作。こんなに美しい家族を描けて、同時に「日の出前」のような家族ならではの地獄も書けてしまう太宰はやっぱ太宰。やっぱりもう、小説が、うまい。
2024/04/10
杜のカラス
最近のミステリー、ほとんど読んでないので、この太宰治のミステリー小説、時代ががっているとはいえ、結構、読むには値する。新聞に連載されている小説でさえ、若い人の書いたものは、それなりに読めるものの、意欲や関心が続かない。それ以前に、語彙が腑に落ちない、もう時代、年代が違う。せめて太宰治のミステリーを読んで悦に入っておこう。 感想文、読んですぐ出ないと、もう忘れている、もちろん読み返せば、読んだことをはっきり思い出すのだが、まだまだ他にたくさんの本を読みたい。読みたい本がたくさんある。社会に出てから断絶した。
2023/06/11
Inzaghico (Etsuko Oshita)
太宰は意外とユーモリストだったんだな、とわかる作品もあった。「愛と美について」だ。五人兄妹の長女が惚れっぽい体質で、すぐに捨てられてしまうのだ。「同じ課に勤務している若い官吏に無風になり、そうして、やはり捨てられたときには、そのときだけは、流石に、しんからげっそりして、間の悪さもあり、肺が悪くなったと嘘をついて、一週間も寝て、それから頸に繃帯を巻いて、やたらに咳をしながら、お医者に見せに行ったら、レントゲンで精細にしらべられ、稀に見る頑強の肺臓であるといって医者にほめられた」。電車の中で思わず吹き出した。
2022/07/29
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