くるみ割り人形とねずみの王様 (河出文庫―種村季弘コレクション)
くるみ割り人形とねずみの王様 (河出文庫―種村季弘コレクション) / 感想・レビュー
里愛乍
外に遊びに行けない退屈な子供たちの為に、まるで読み聞かせをしているかのような茶目っ気いっぱいの物語。解説によれば、ホフマンおじさんが親友の子供たちのために即興で作ったお話だそうで、どことなく不思議の国に通ずる荒唐無稽性は感じられます。飽きないこと重視、面白いことか一番大事、物語の醍醐味とは基本其処なのかもしれません。だからこそこんなにも長く世界中で愛されてるのかも。美と醜、玩具やお菓子の扱われ方等、突き詰めれば深みも増し、子供も大人も如何様にも楽しめる作品ですね。
2020/04/27
ひめありす@灯れ松明の火
バレエのコケティッシュでチャーミングなくるみ割り人形しか知らなかったので、このグロテスクでちょっとノワールなところもあるくるみ割り人形は新鮮でした。でも、くるみ割り人形ってそのもの結構グロテスクかもー、と思いながら読みました。不思議の国のアリスに通じる、過剰な少女らしさや愛らしさが、苦い毒になってこの作品には包まれているのだと思います。収録の短編では、見知らぬ子供が好きでした。こちらはさっと爽やかな、ミントのジュレを乗せたアイスティーや西瓜水みたいな味でした。
2012/04/30
A.T
どこから夢で、現実はいつからなのか… 玩具の部屋で繰り広がるお伽話。不思議の国のアリスのように、素敵な挿絵が欲しいなぁ。頭に毛が一本もなくてガラスのカツラをかぶったドロッセルマイヤーさん、魔法使いのマウゼンリンクス夫人、夫人のあだ討ちにやって来る7つの頭のねずみの王様、そして、ドロッセルマイヤーさんの甥のドロッセルマイヤー青年(魔法にかけられたくるみ割り人形の姿と、魔法をとけられた王子様の姿)… バレエ「くるみ割り人形」の原作。読むならクリスマスでしょ、という教養もないままGW連休の昼下がりに読了。
2021/05/02
梟をめぐる読書
美しいのに醜悪。愉快なのに残酷。エレガントなのに胡散臭い―。ホフマンの童話には常にシュヴァンクマイエル監督による実写アニメのような、不気味さと如何わしさの印象が付き纏う。親戚の子供たちを訪ねては恐ろしい作り話をする叔父さんは得体が知れないし、頭が七つあるネズミの王様はグロテスクだし、メルヘンではお馴染みの小人や妖精といった登場人物たちも、ここでは土地の信仰や四大の元素と結びつき、異様な雰囲気を漂わせている。だが子供たちの現実と地続きにあるその「如何わしさ」こそが童話の本質であったことも、また確かなのだ。
2015/07/12
SAT(M)
バレエのくるみ割り人形の元ネタ。これが本場ドイツのメルヘン!一般的に想起される「メルヘン的な」というイメージに含まれないであろう、シュルレアリスムと似た不気味さや異形さがある作品です。玩具で遊んでいるうちに、部屋が広大な戦場になったり、逆に自分の背丈が人形の縮尺になっていたり。空想と現実が未分化な事象が次々と説明なしに起こります。大人の固い頭でロジカルに読もうとすると?が止まらないのですが、子供の頃そんな空想していたなー、ということを思い出しながら読むと腑に落ちました。色々な読み方を読者に許す作品です。
2021/08/29
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