拳闘士の休息 (河出文庫 シ 7-1)
拳闘士の休息 (河出文庫 シ 7-1) / 感想・レビュー
ずっきん
すっごいよかった! ヴェトナム、ボクサー達、ガンにおかされた老女、ショーペンハウアーとニーチェ。どいつもこいつもどこかぶっ壊れてて、ド正面から拳を繰り出してくる。紙面を埋め尽くした言葉は分厚い壁のようで、行間なんてもんはない。だが、容赦のない武骨な拳にガッツンガッツンぶん殴られながらドアをこじ開けると、そこには窓と倒れこむためのソファがある。「ブレイク・オン・スルー」の勢いと狂気、仕事を放り出して恋人に会いに行く女編集者の「アンチェイン・マイ・ハート」どちらも疲弊するほど追体験させる熱と腕前に膝をつく。
2019/10/19
こばまり
中でも秀逸なのはベトナムものだが作家のプロフィールを知り驚く。とても男性性の強い文学で、登場人物はもう本能で生きている。嘆き落ち込み思索もするがとりあえず生きるのが好もしい。女性が主役の作品にも、この男はちょっといいなと思える男が出てくる。
2019/03/06
kazi
この短編集、ちょっと凄すぎるよ( ;∀;) 喰らい過ぎてまともな感想書ける気がしない・・。一文一文にテストステロンとヘロインが滲みこんでいるような、男臭く、絶望的で、殺気立った「声」に満ちている。とにかく小説を形作る声が独創的。ベトナム戦争と、ボクシングと、ジム・モリスンと、ヘロインと、ショーペンハウアーをごった煮にしたような・・。なんでこんなにリアルなんだろう?と思ったら、著者は悲惨な環境に生まれてベトナムもボクシングもドラッグも癲癇も全部経験してるんですね。これ、間違いなく唯一無二です。超おすすめ。
2020/08/17
kariya
痛みとはかくも普遍的なものなのか、それともこの作者の筆力が凄まじいのか。戦場で、不治の病の病床で、軍付属の精神病施設で、転がり落ちればただ無が待つ一線の上を危うく生きる人々を描く短編集。現れる苦痛や悔恨や惨めさが、あまりに明瞭で生々しく紙上の出来事とは思えない。そして透かせぬ絶望に裏打ちされているからこその、ある一瞬に訪れる清涼な美しさ。切りつけるような痛みを残す表題作を始め忘れ難い作品が多いが、「ブレーク・オン・スルー」はかつての(稀に今も)自分の祈りを見出して印象深い。「どうか今ではありませんように」
2009/11/20
zirou1984
ニヒリズムを込めた全力の右ストレートでパンチドランキンって感じの短編集。ベトナム戦争や障害を負った元ボクサー、ショーペンハウエルの哲学が繰り返し物語のモチーフとして扱われながら描かれるのは壊れてしまった生、病院送りの生、風前の灯の生。しかしながら彼らはいずれも懸命に生きているのだと主張する。生とは困難な闘いなのだと示している。鋭利な言葉が眼前でスパークする。最低なライフに似合う、不格好な花束を。どん底から渇望する力への意志を称賛する本作はそんな人生の底を引き上げてくれるような、とても勇気の出る小説だった。
2016/08/28
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