パワー 上 西のはての年代記Ⅲ (河出文庫)
パワー 上 西のはての年代記Ⅲ (河出文庫) / 感想・レビュー
星落秋風五丈原
『ギフト』では北の果ての荒地、『ヴォイス』で“西のはて”の都市国家アンサルが舞台になった西のはて年代記シリーズ、最終作は両者のちょうど真ん中にある都市国家群の一つ、エトラが舞台になる。『ギフト』では為政者の血筋、『ヴォイス』では征服者に支配され、兵士との間に生まれた子供が主人公だったが、本作は生まれながらに奴隷の身分であるガヴィアが主人公だ。家族や友人たちが支えてくれた第一作、家族はいなくても導き手である道の長に守られていた第二作に比べ、彼には庇護者がいない。
2021/08/30
世話役
2分冊の上巻なので最終的な感想は下巻にて。その代わりに今まで語り忘れた、というよりは見落としていた要素を挙げておく。この『西の果ての年代記』において一貫して鍵となっているものは「本」「言葉」「信仰」の3つである。強者の側はこの3つの要素に何かしかの恐怖心を抱き、人生を絡めとられている。対する主人公の側はこれら強者の論理、別の言い方をすれば因習を打破し、以って自己の強さを獲得していくのだ。
2015/01/17
roughfractus02
ファンタジーを現実に対する選択肢と捉える作者は、主人公に「文字」を覚えさせ、書物を読ませて記憶する能力を与え、さらに悲惨な出来事を体験させて自らの現実を自覚させ、そこから物語世界を動かしていく。姉と不自由のない生活の中で幸福を感じている主人公の黒人少年は、姉が殺されるところから恵まれていると思っていた自分が奴隷であり、奴隷制社会の現実の中にいることを自覚する。同時に、主人が与えてくれた教育が彼に「思い出す」能力を目覚めさせる。物語のテーマが幸福から自由へ展開する中で、主人公は未来の記憶を思い出し始める。
2024/01/13
FreakyRider
今回も夜更かししてしまう面白さ。なぜだろうか、深みがある小説は意識して登場人物に自分の気持ちを同化させる苦労を味わうものなのだが、ル=グウィンの小説はすっと引き込まれ、なおかつ、場面場面が身体的に感じることができる。それだけに、カヴの絶望が実際の痛みを伴って自分に突き刺さった。本当につらい。しかし、3巻ともここまでのめり込む理由を考えてしまう。ビジョンを喚起させる力が強いのか、心理描写、自然描写が自分の体験に馴染むのか。夏の農場の場面は素敵だったなー。
2012/07/20
オイコラ
ガヴィアの幸せと館の主人たちの優しさや正義、その裏側の欺瞞。この表と裏が繰り返され、ガヴィアは裏側を目にするたび傷つきながら旅をする。第一部でのこの「幸福」と潜む「欺瞞」の書き方がうまいなあ、と思う。ついガヴィアと一緒に幸せだと思いこんでしまう。
2012/08/21
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