青い脂 (河出文庫 ソ 2-1)
青い脂 (河出文庫 ソ 2-1) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
変態作家を生み出してきた国、ロシアで作品が発禁にされた最も過激な作家、ソローキン。実は『愛』の短編で女性教師が生徒に折檻するという話で殺意混じりの嘔吐感と嫌悪感を催して以来、ソローキンが苦手になっていました。読友さん達の感想と最近、同人誌にも慣れてきた事に押され、恐る恐る、この作品を読む。あれ、意外にイケたっ!?○|○や文豪作品をパロディにした下ネタの数々に腹を打たれ、歴史的にはありえなさ過ぎるフルシチョフとスターリンの幼児プレイに「まだ、ヌルい方ね…」と思えるようになったのは同人誌のおかげか成長か?
2016/08/09
まさむ♪ね
なんてお下品なんだ、ウラジーミル・ソローキン。琥珀色の液体に茶色い固形物の浮遊する広大無辺、荒唐無稽のオペラ観劇。異様の少年はロシアの大地に巨大な男根を突き立て行為に耽る。そしてその巨大すぎる性器を肩に担ぎ、七体の奇体な文豪クローンが生み出す謎の物質「青脂」を携え時をこえる。そこで繰り広げられる「青脂」争奪戦。フルシチョフが、スターリンが、そしてヒトラーが、やってやられてやりまくる。エロ、グロ、スカトロ満載、なのに不思議と読後感は悪くない、むしろ良い?いや最高だった。宇宙空間に青脂をぶちまけたみたいに。
2016/07/14
ころこ
思想には何かを言明したり、統合したりする力があります。他方、文学にはそれを解体し、思考不可能なものを言い当てる力が宿ります。無論、文学にも統合する力はありますが、説明的になり倫理的(物語的)になります。本作は国家を解体し、歴史を解体し、セクシャリティを解体し、食べるものと排出するものの区別を解体するその先の説明不可能で言語化可能の稜線を表現しています。テクストを模倣し裁断することで物語(倫理)を拒否するため、「よく分からない」と受け取られます。解体は欲望に似ています。欲望を抱かない読者は解読不能でしょう。
2019/02/13
kasim
評判通りの変態本。全体像はさっぱり分からないが強烈な推力でぐいぐい読ませてしまう。造語交じりの最初の研究所部分はリズミカルでバージェスやギブスンを思い出す。中間部はRPG風。最後の20世紀平行世界ではスターリン×フルシチョフ(ただし長い白髪の伯爵)なんて、腐女子もびっくりの取り合わせ。十年前ならただの悪ふざけかと思っただろうが、今の世界の政治状況だから滑稽と絶望が背中合わせなのが分かる気がする。文豪のパロディは翻訳のためよく分からないけど、チェーホフ3号が好き。全体に翻訳者の苦労がしのばれる。
2020/03/27
Shun
ロシア作家による風刺とエログロ、ぶっ飛んだ造語に満ちた奇書級の文学作品。ソ連やナチスの指導者を強烈に揶揄した描写や言い回しは難解極まりなく、奇抜な世界観にナンセンスな展開が刺激的でストーリーを追い読み進めさせてくれるインパクトのある言葉の奔流に圧倒されます。主題の青い脂は勿論メタファの意味もあるが、作中では実際に青く光を放つ脂状の未知の物質として登場する。これは永遠にエントロピーゼロを保つというモノポール並みに稀有な代物で、ロシア文学者の創作の過程からのみ創られるという。こんな発想は誰にもできないだろう。
2022/12/13
感想・レビューをもっと見る