さすらう者たち (河出文庫 リ 4-2)
さすらう者たち (河出文庫 リ 4-2) / 感想・レビュー
KAZOO
イーユン・リーの長編小説です。短編小説集はいくつか読んできましたが長編は初めてです。中国の文化大革命後の話ですが、政治的な意図よりも市井の人々がどのような考え方を持っていたのかどのような生活をしていたのか、を克明に描いています。また人間というのは必ずしも単純な線引きはできないということがよくわかります。やはりこの作者の作品は非常に私にとっては印象深いものです。
2016/11/27
buchipanda3
文化大革命が終結して間もない中国のある地方で生きる様々な者たちを描いた群像劇。著者の小説は毎回、読み終えて充足感に包まれる。今作でも偏りのない目で真摯に人間を見つめ、その姿をつぶさに描き出すことの意味を実感したように思う。大きな歴史のうねりに対して民は小さな存在。でも人は良くも悪くも歴史の中を生かされているわけではないのだなと。どんな状況でも自らの営みがあり、我欲、自尊、無責任などの面を見せてしまう。それはハリネズミのように愚かかもしれないが知性だけでは解決しない。さすらう姿を華夫妻の心で見つめるだけだ。
2024/10/21
アン
主人公は、文化大革命後の中国で行き場を「さすらう者たち」。国家権力により統制された社会で、反革命分子とし処刑された若い女性の家族と関わりを持った人々。未来を生きる為、善悪の狭間で苦悩する姿をありありと精緻な筆致で描いています。平穏な暮らしを続けたい市井の人々のささやかな愛情や願いさえ、隣人の密告や監視の目により歪んでしまう現実…。心の拠り所を求めさすらう魂。「私は娘ではなく、妻でも母でもない。私は私だ。今日は最後まで私自身でいよう。」悲しい物語ですが、静かに心に残る一冊です。
2019/02/20
nobi
声域で言えばアルト、でリーは物語る。拡声器からは『熱愛祖国』が流れ、次々生まれる赤ん坊を親は番号で呼ぶ。文革後の一地方都市。人々の生活、感性は遠く隔たっているはず。なのに一人一人に感じる親しさは何なのか。かつて紅衛兵となった娘に吊し上げられた顧師。彼と共に私も朝の町に出、ゆで玉子を売る少女の指の霜焼けを見る。凱と同じく夫の寒の愛情表現を疎ましいと思い、妮妮が舐める告知を貼る小麦粉の糊を甘く感じる。彼らが薙ぎ倒されてゆく第3部は立ち竦むしかないが、第1部第2部のゆっくり回転を始めた物語はきっと熟成を続ける。
2017/02/11
aika
大人も子供も愛する大切な人を、自分を守るために誰かを陥れていく。永遠に続く悲劇の連鎖にあっても、人は笑い泣き怒り、悲しみを湛えて生きていくしかない、生きていける。「反革命分子」として公衆の面前で処刑された女性の死を起点に、同心円状に広がる人々の人生。娘の名誉回復のために無力さから抜け出し目覚めていく母とそれが認められない父。立派な地位を捨て彼女と同じ道を辿る凱。体制の外にいる八十と妮妮。それでも童が、そこにいた小さな少年は物語の光でした。街を出たさすらう者たちの後ろ姿に、前途に、明かりが注がれますように。
2019/10/13
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