島とクジラと女をめぐる断片 (河出文庫 タ 3-1)
島とクジラと女をめぐる断片 (河出文庫 タ 3-1) / 感想・レビュー
青蓮
タブッキの作品は旅のようだ。夢を、記憶を、現実を彷徨い歩きながらまだ見ぬ風景、知られざる自己を探求する。本作も青い海を航海しながら島々を巡り、クジラを追いかける。しかしそれは文字通りの意味を越えた海の旅だ。喪われたものを懐かしむような追憶。断片的な物語は明瞭な繋がりは持たないけれど、一つの物語として読める不思議な作品。読んでいる間ずっと静かな青い海の幻影が頭の中にあった。訪れたこともない異国の海に親しみを覚えた。様々な人や物が行き交う港は出会いと別れの発着地。タブッキの作品もまた港のように感じた。
2019/07/29
えりか
染み入るように、ゆっくりと心に浸透していく読書体験。夜に現れるウツボは美しい歌声に誘われる。神秘的な愛の行為をするクジラは男たちに捕らわれる。そしてアソーレス諸島の男たちもまた女に魅了される。断片的な彼らの人生は他者に翻弄され、滅び、消え、孤独だ。孤独だからこそ誘われてしまう。島のカフェに貼られ、読まれることを待っている短い手紙のように、私たちは誰かに見つけてもらいたいのだ。クジラが求愛のシグナルを出すように、私たちも短い言葉をずっと送り続ける。まるで悲しい唄を聞いたよう。貴重な読書になった。
2018/03/14
アン
ポルトガルを愛するイタリア人タブッキが描いたアソーレス諸島にまつわる物語の断片であり、主なテーマは隠喩としてのクジラ、難破。好奇心や恐怖感、崩壊、静かな狂気…。クジラの自然から授かった真紅の血、強い感受性や眠りは幻想的であり、その荘厳な姿と命果てるさまは気迫に溢れています。巻末の短編「ピム港の女」が印象的。須賀さんのこの本への 愛情が窺われ、詩情豊かな訳も素晴らしい作品です。
2019/02/27
のせ*まり
不思議な本。波間を揺蕩っているような。クジラは人生の隠喩らしいけど、難しいことを考えずに、私はただ、読んでいる間中、そこに紡がれている世界をぷかぷか浮いていた印象。なにも考えずにぼーっと読むのが心地よかった。そんな読書は久々だったので、読後感がたいへん良いのです。 もう初秋だけど、海に行きたいな。人が一杯の海じゃなくて、丁度今くらいの少し寂しげな海を朝に見たい。
2018/09/22
Nao Funasoko
なんてかっこいい書名なんだろう。夏の終わりに手にするのにぴったりじゃないか。 まえがき~本編~あとがき~地図、補注、資料に至るまで一つひとつの断片がそれぞれだけで成立する構成。 歴史的、地理的な背景についての知識が乏しいうえに隠喩が多くおそらくはその半分も理解できていないのだろうがこういう作品世界は好きだ。 小説というよりも詩集に近いので旅(そしてそれが海辺ではなくとも)の連れとして携えるのにいいかもしれない。多分、いずれまた再読するであろう。
2018/08/24
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