完全な真空 (河出文庫)
完全な真空 (河出文庫) / 感想・レビュー
やいっち
レムはアリストテレスじゃないが、真空など認めたくはなかったのだろう。だからこそ、<存在しない書物>をでっちあげてでも文学の時空の穴を埋めようとしたのだろうか。あるいは、古今の文学時空にも穴はある。その穴の存在を示すため、空無を何処までも完璧に埋める営為を示してみたのだろうか。ドン・キホーテ的な、喜劇的な企図と言うしかない。ま、読者たる吾輩は、生真面目に翻弄されるしかないのだろう。
2021/05/28
そふぃあ
冒頭からもう ボ ル ヘ ス じ ゃ ん って思いがすごい。『伝奇集』の存在しない書物や場所がさも実在するような緻密さで描かれた短編たちを読んでるときのあの名状し難い尻の座りの悪さ、あの感覚の再来。 「ギガメシュ」がエグすぎた。多義性のある作品をオマージュした多義性のある作品のすべての参照事項、連想、文化・神話、語源に注釈したその多義性の一部に触れるだけでも発狂しそうになる恐ろしい批評。 不可能を可能にするのは架空の書評だからこそ為せるわざだ。
2020/01/30
田氏
これが文庫化と聞いたときには、いったい何が起こっているのかと思ったものだけど、あのときの自分に「二年後には百年の孤独が文庫化くるで」と言ったら信じるだろうか。とまれ、レムの(たぶん)真髄が詰まったメタフィクションである。前半は、書かれなかった、あるいは書くことが不可能な小説のアイデアの展示会であり、後半に向かうにつれて思弁は文学的なものから社会的なものになっていき、なんやかんやあって、ついにはわれわれの物理宇宙をも飛び出す。それを最初から最後まで貫いているのは、「逆に考えるんだ」的レムみ。レムいんですよ。
2024/07/20
みなみ
存在しない架空の本の書評を集めた書評集。架空の本のはずなのに、細かすぎる設定や本文が大量に出てきて、圧倒される。本文だけでは味わえない批判的視点も楽しめるという意味では贅沢な本なんだろうけれど、途中では理解がしづらいところもあった。最初の書評が「完全な真空」でこの本全体のことを批評しているかのような体になっているのは、面白い。
2023/12/27
masabi
【概要】架空の書籍の書評の体裁を取った短編集。【感想】小説に落とし込めないが捨てるには惜しいアイデアだけあって、実在する本だったらどれだけ良かっただろうか。小説に文化のすべてを詰め込んだ「ギガメシュ」、戦後のアルゼンチンでパリの宮廷を再現する「親衛隊少将ルイ16世」、物理法則は発展途上だと説く「新しい宇宙創造説」など。本書と同じく架空の本の序文の体裁を取った本もあるそうなので、そちらも読みたい。
2020/06/02
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