ラウィーニア (河出文庫 ル 2-5)
ラウィーニア (河出文庫 ル 2-5) / 感想・レビュー
ケイ
アーシュラ•K・ル=グウィンが、愛し尊敬するヴェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』の後半の数節を語り直す。彼の最後の妻、ラウィーニアの口を借りて。男たちが描く男たちの歴史を女の視点で描く。ル=グウィンはあとがきで言う。自分はヴェルギリウスを批判するつもりは全くないが、ラウィーニアが時にした、と。そこにすごく共感する。戦いに行く男たちを待つ女たちの怯えと心細さを、歴史書は顧みないことが多かったから。女は時に褒美であったから。強いル=グウィンに語る場を与えられた女たちの声は雄弁。
2020/12/06
buchipanda3
ラウィーニアという一人の女性が語るある王国の物語。彼女は詩人ウェルギリウスが記した叙事詩にも登場しており英雄アエネーアスの妻となるが、彼女のセリフは無く、唯一お告げのように髪が燃える場面だけが印象に残った。しかしル=グウィンによって彼女は声を得る。彼女が見た戦争、そして男たち、夫、父親、求婚者、義理の息子、愛息。彼らの生涯と共に生き、試練を受けながら敬虔さを貫き、意思を颯爽と示す。詩から飛び出して自らを表した。悠然かつ朗らかな彼女は魅力的。そして著者の流麗な文章に酔いしれ、最後まで至福の読書を堪能した。
2022/06/25
NAO
自分のせいで戦争となり、男たちが命を落とした。そして、勝利したアエネーアスの妻となったラウィーニア。だが、彼女自身については、『アエネーアス』では、最後の方でほんの少し語られるだけ、しかも彼女は一言も発していない。ル=グインは、同じ女性として、彼女のそんな扱われ方に納得がいかなかったようだ。さらには、現代の古典離れも気になっていたということで、自分なりのラウィーニア像を作り上げた。ル=グインのラウィーニアは、しっかりした考えを持ち、他人を見る目も冷静、なかなか魅力的に描かれている。作者の人柄が感じられる。
2020/10/21
呼戯人
2018年に88歳で亡くなったアーシュラ・K・ル・グウィンの最後の長編小説。抑制の効いた筆致、突然現れる煌びやかな比喩。トロイアからやってきたアエネーアスの妻になって、一人息子を育てる。その間、いくつもの戦争があり、殺戮が繰り返され、古代の神話的世界が女性の視点で歌い直される。私は「アエネーイス」を読んではいないし、ウェリギリウスのこともほとんど知らないが、ル・グインの筆力によって女から見たローマ帝国の初めを味わったような気がする。
2022/04/30
ふりや
古代ローマの叙事詩『アエネーイス』を女性であるラウィーニアの視点から語り、再構築した、ル=グウィン最後の長編。イタリアのラティウムの王、ラティーヌスの娘、ラウィーニア。彼女は礼拝のために訪れた森で、詩人ウェルギリウスの生き霊に出会い、自分の波乱に満ちた生涯を示唆されます。そして予言の通りに訪れる戦争や愛憎の中を、彼女は力強く生きていきます。著者の他の作品と同様に、世界観の作り込み、人間関係への洞察、文章での表現力が尋常ではない凄まじいまでのクオリティ。谷垣暁美さんの訳文も素晴らしかったです。 傑作!
2022/01/18
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