いまファンタジーにできること (河出文庫)
いまファンタジーにできること (河出文庫) / 感想・レビュー
活字スキー
【未熟な人たちは、これは良い、これは悪いという確信を渇望し、要求します。このわかりにくい世の中で、彼らは自分が勝ち組にいると感じたいのです】多くの受賞歴を誇り、多くの創作家たちに多大な影響を与えたアーシュラ・K・ル=グウィンが晩年に自作や思い入れのあるファンタジーについて語ったエッセイ集。『Cheek by Jowl』という原題がうまく訳せなかったそうで、ちょっとタイトルから予想した内容とは違ったものの、偉大な作家にして読書家で評論家でもあった彼女の人柄、ファンタジーに対する思いなどが知れて良かった。
2023/07/25
コニコ@共楽
『ドリトル先生アフリカへ行く』を読むにあたって、ル=グウィンの「子どもの本の動物たち」を読む。ファンタジーという特定のジャンルに限らず、人間と動物の物語は数多く綴られてきた。ル=グウィンはヒトと動物に特別な境界線を引かずに動物には動物の言葉を翻訳する本を見出すことが大切だといっている。ディズニー映画で描かれている『バンビ』ではなく、原作の『バンビ』や『黒馬物語』を読んでみたくなった。彼女の書いている『空飛び猫』シリーズも気にかかる。メッセージありきのファンタジーではなく、物語にこそという彼女に力を感じる。
2024/05/17
roughfractus02
ファンタジーは人類最古の文学形式だと著者が言う時、トーテミズム的なさまよいの物語が念頭にあるようだ。また、ファンタジーは子供の物語でも戦いの物語でもないとされる時、自己と対象、善と悪の対立を設けない関係と結び目からなる物語がモデルにある。それは関係しか語らない夢や動物のコミュニケーション構造に近い。政治や心理や神学の寓意を物語に読まないように警告するのも、多様な関係を固定させないためだろう。敵と対立を前提とした物語から離れたファンタジーは、狩猟採集社会以降発達を止めた脳の構造にフィットするのかもしれない。
2024/01/31
聖龍
エッセイ集。ファンタジーを読むことに少し恥じらいを感じていたが、それが反知性主義的な野蛮な考えであることを教えてもらった。ファンタジーは幼稚でも、現実逃避的なものでもない、ファンタジーは善と悪との真の違いを表現するのに役立つ道具である、より大きな世界を手に入れるためのものであるとのこと。また物語の言葉に全身全霊を傾けて、あなたの物語を見つけることが大切、決して象徴的な言葉で内容を纏め、物語世界を矮小化してはいけないと。耳に痛い。動物物語に関する論考も素晴らしく、そこに取り上げられた本を読んでみたいと思う。
2024/02/14
iwtn_
昔よく通ったが小さくなった本屋を応援する意味で、何か買おうと手に取った。大御所によるファンタジー論。ファンタジーに商業主義が陥り粗製濫造を嘆く部分もあり。欧米では子供向けとされ文学の主流から外されているファンタジー。逆に日本では漫画・アニメを中心に様々な商品とのコラボによって日常にまで侵食しているが、それらへの批判にも繋がりそうな言葉もある。大体剣と魔法で善悪が戦うわけだが、その間にある違いがわかるようになるのが本当に大切なことだと。また、動物の話も一種として、オススメのものを上げているのは興味深い。
2024/01/04
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